第10.5話 “彼”の居ぬ間の彼女達

 陸斗が友徳とものりの家へ向かって、まもなくの事だった。


 彼女は、ポンポンと膝の上に寝ている女の子の額を優しく叩く。

「そろそろ起き上がっていいわよ、琴里ちゃん」

「……気づいてたんですね」

 そう言って、美海みうの合図でぱっちりと目を開け体を起こすと、今朝方の気絶が嘘みたいに元気に伸びを始める琴里。

「そりゃまぁ、琴里ちゃんとは長い付き合いだもの。何となく気づくものよ」

 自信満々に美海は答える。

 だが、琴里にとってはむしろその答えが不安材料になったのか

「でも……りっくんは気づいてくれなかった」

 と、弱気に呟く。


 同じ幼馴染でも陸斗は気づけず、反して彼の姉である美海は気づいていた。

 いくら別れたとはいえ、恋人だった幼馴染に気づいて貰えなかった。

 琴里にとって、それはかなりのショックだったのだろう。


 だが、ここで美海は予想外の発言をするのだった。

「電話しながら、しかもずっと琴里ちゃんに背を向けてたんだから気づかなくても仕方ないじゃない」

 普段は陸斗に対して悪態しかつかない美海が、今回に限って陸斗を庇ったのだ。

 琴里の言い分が理不尽だとおもったからなのか、それとも彼女の気まぐれなのか。


 どちらにせよ、美海が陸斗を庇ったことはかなり珍しいことで

「それは、そうですけど……」

 思わず、琴里は困惑するのだった。


 そんな琴里の様子に美海は、ふふっ、と笑みを漏らす。

「まぁ、悩みなさいな。琴里ちゃんに頼られるのは好きなんだから私をいくらでも使ってよ」

 琴里や陸斗より1つ年上の美海にとって、頼られることはお姉ちゃんである事を見いだせる数少ない機会であり、そしてそれが彼女にとっての喜びでもあるようだ。

 だからこそ

「……すいません。それじゃあ、もう少しだけわがままに、付き合ってもらっていいですか?」

「ふふっ。元は私が言い出したことなんだから気負うことなんて無いのに」

 美海は、琴里からの頼みは快く受け入れるのである。


「それにね」

 美海は更に言葉を続ける。

 琴里は美海が言葉を言い切っていないからか、ただただ頷いて黙っていた。

 真剣な表情をしながら彼女は美海の言葉を待った。


 そして次に美海が言葉を発したのは、時間にして10秒ほど。

 大した長さでは無いかもしれない。けれど、彼女が言葉を発するのに様々な葛藤があったのかもしれない。


 それ故に


「私はいくらでも陸斗に嫌われても、構わないんだから、さ」


 美海の言葉には重みがあった。

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