第10話 銀色髪の幼馴染の傍らで

「てことで、ちょっと今から出かけてくる」

 スマホから耳を話すと、陸斗りくとは姉の美海みうに声をかけた。


 その美海はと言うとリビングにて未だ気を失ってからずっと穏やかに寝ている琴里ことりに膝枕をしているのだった。


「電話聞こえてたから分かってる。友徳とものりくんのところでしょ?相変わらず仲良いわよね」

 自分に背を向けながら話しかけてくる弟には目をくれず、膝の上で無防備な寝顔を見せる琴里の方に夢中な美海。

 琴里の銀色の髪は色んな人を惹き付け、それは幼馴染である美海も例外ではなく、

「……どんな香りなんだろう」

 と真後ろにいる陸斗に聞こえないくらいの声の大きさでポツリと呟き、思わず禁断の扉を明けてしまいそうになるほどである。


「あれ?電話相手言ってないと思うけど」

 相も変わらず背を向けたまま話を続ける陸斗は、姉の美海が元恋人である琴里を愛おしい目で眺めていることなんて知るよしも無かった。当然、姉が幼馴染の銀色の髪の香りを興味を示していることなんて尚更知りえない。

 だが、陸斗が声をかけてくれたおかげで美海は一歩留まることができたのであった。


 と、ここで陸斗が放った言葉に引っかかるところがあったのだろうか、美海はいつもの様に意地悪めな口調で背面の彼に問いかける。

「陸斗が電話で話す相手なんて、私やお父さんお母さん、それと琴里ちゃんを抜いたら友徳くんくらいでしょ?もしかして他に居た?それなら謝るけど」

「うぐっ……別に他には居ないけども……」

 美海は陸斗の些細な隙も見逃すつもりは無いようで、そして十中八九、陸斗は言い負けをする。


 いや、そもそも陸斗の勝ち目なんて予め無いと分かっているからこそ美海は仕掛けてくるのかもしれない。

 だが、そこは彼女のみぞ知るところである。


「ほらね?つまらないことで見栄を張るもんじゃないよ〜」

「別に張ってたわけじゃないんだけどね」

 はぁ、と大きくため息をつく陸斗。

 わざと、美海に気づかれるように。


 だが、美海はその彼なりの抵抗を受け流すかのように

「どうしたの?友徳くんの家、行かないの?」

 と陸斗に出発を促す。

 その姉からの反応に、陸斗はなにか伝えようとしたが、それを引っ込め玄関の方へと足を運ぼうとした。


 その去り際に、一度美海の方へと振り返る。

「……琴里ちゃんのこと傷付けたら姉貴でも許さないから」

「はいはい。大丈夫よ、お姉ちゃんに任せなさいな」

「信用出来ねぇけど……今は信じるしかないもんな……」

 琴里に変に手出しするな、と美海に念押しすると陸斗は再び背を向けようとした、その時だった。

「あぁ、それと──」


 陸斗は美海にのみ聞こえるように、彼女の耳元で言葉を連ねる。

 その後、すぐさま陸斗は家を出たのだったが、残された美海の口元は不思議と緩んでいたのだった。


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