第7話 尽き果てた心と枯れ切ったはずの涙
「……ただいま」
恋人と別れた悲しみを吐き出し終わり、涙も出なくなった
「おかえり陸斗、随分とゆっくりだったのね……って、どうしたのその顔!」
リビングでくつろいでいた
見るからに泣いた後だと分かる腫れた瞼に心配する美海だが、
「あーそれが……」
「
「……っ!!」
言葉を濁そうとする陸斗に疑問をハッキリと突きつける美海。
思わず陸斗は顔を硬直させた。
やがて
「なるほどね……」
と言って腕を組む。
「きっと俺に原因があったんだと思うよ。琴里ちゃんは俺は悪くない、って言ってたけど……間違いなく俺のせいだよね……」
一方的に別れを告げられたのにも関わらず、陸斗は琴里を庇おうとする。
今でも、彼女のことが好きなのだろう。
好きな相手のことを守りたいと思うのは男の在り方の1つだが、今の陸斗の在り方はどことなく危険である。
「理由は聞いてない?」
「……聞けるわけないだろ」
琴里のせいにしないようにしてるように見せかけて、何かから目を背けようとしてるのだから。
そんな陸斗に、美海は突如として妙な事を言い出した。
「なら、私が言わなきゃだね」
「え……?それってどういう」
何故姉貴が?と陸斗が言い終わる前に
「ごめんね、お姉ちゃんが琴里ちゃんを奪っちゃったの」
美海は巨大兵器を実の弟にぶつけるのだった。
「は……?」
突然何の冗談を言い出すのかこの姉は、と言った表情をする陸斗だったが、美海の表情が真剣そのものだったのを見て全てを悟ったようだった。
「姉貴?自分で何言ってるかわかってる?」
精根尽き果てかけている陸斗は力を振り絞って美海に問いかける。
「分かってるわよもちろん。分かってて言ってるのよ」
そしてその陸斗からの言葉を真摯に受け止める美海。
「……どんだけ俺をいじめたいんだよ、姉貴は!!悪ふざけにも程があるだろ!!」
すっかり枯れ果てたはずの陸斗の瞳に再び涙が溜まるが、今度は琴里の時とは違い堪えること無くそのまま顎を伝って床へとポツリと雫が何度も何度も落ちる。
恋人に別れを告げられただけでなくその恋人を普段から自身をからかってくる実の姉に取られたのだ。泣かずにはいられないとはこのことだろう。
だが、それでも美海は言葉を止めることはしなかった。
「なるほど、陸斗はこれをいつものいじめだと思うんだ」
「なんだよ……、その言い方……!」
「そのうち、分かるわよ」
そう言って、洗面所の棚からタオルを取り出しそのまま陸斗へと投げ渡すと、美海は陸斗から背を向けた。
そして
「そうねぇ……多分明日くらい?」
それだけ言い残すと、階段を登り自室へと入っていく美海なのだった。
玄関に1人、精根尽き果てた弟を残して……。
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