第6話 さよなら、元恋人よ
「……さっきの別れようって話はさ、本気なの?」
「…………ゴメンね、りっくん」
喫茶店から駅前までの道のりで会話らしい会話はほとんど無かった。
恋人から別れを告げられた陸斗は琴里から顔を背け、恋人に別れを告げた琴里も顔を背けていたのだから、会話がなくて当たり前というものだった。
だが、陸斗には琴里を諦めるという選択肢は無いようで
「俺のどこが悪かった……?何か不満があるから、別れようなんて言ってるんでしょ……?」
自らを改めようと、琴里にダメだったところを聞き出そうとする。
けれど、帰ってくる答えは喫茶店の時と変わらず
「さっきも言ったけどね、りっくんに悪い所はないのよ……」
あくまで自分が悪いと琴里は言い張る。
だが、当然そんなので陸斗が納得できるはずもなく
「ならなんで!なんで別れるなんて言うんだよ!」
嘆きにも近い、心からの声が陸斗の口から吐き出された。
陸斗の目には涙が溜まっていた。
それでも流すまいと、男なら恋人の前で涙は流すまいと、必死に溜め込んでいた。
すると、溜め込んでいたものが突如として崩落したのだろうか
「ゴメンね……私が悪いの……流されちゃった私が悪いの……」
なんの前触れもなく琴里は涙を流し始めたのだった。
「流されたって……、誰かになにかされたのか?そういうことなのか!?」
「…………」
鳥の刺繍が目印の、彼女お気に入りのハンカチで目を拭きながらも、陸斗からの質問に答えず黙りこくる琴里。
琴里の反応に業を煮やしのか
「誰だ?誰が琴里に手を出したんだ?今からそいつに会いに行ってガツンと言ってやるから!」
益々、涙を溜めながらも何とか耐えながらも怒りを露わにする陸斗。
その陸斗の様子を見た琴里はようやく決意したのか、口を開くが
「それは……言えないの……」
「どうしてっ……!!」
陸斗が求めていた答えとは違ったのだ。
「本当に……ゴメンね……。りっくんじゃその人には敵わないと思うから」
「そんなこと、会ってみないと!」
いいから一度会わせてくれよ、と陸斗が言いかけたその時に、二人の間を横切るかのように夏にしては冷たく強い風が吹いた。
そしてその風は琴里の髪を揺らし、先程から俯いてばかりの彼女の表情を露わにする。
「それにね……?その人だと私の心満たしてくれるんだ。……不思議だよね?」
その時の琴里の表情は、今にもまた泣き出しそうな悲しい表情をしていたが
「…………そんな顔されたら、もう何も言えないよ」
それと同時にどこか満足気な表情をしていたのだった。
「今日はもう、ここで解散しよう。……今までありがとうね、琴里」
「りっくんもありがとうね。あと、ゴメンね……」
「うん。それじゃあ……さよなら、気をつけて」
最後のやり取りを終えた陸斗は、元恋人・琴里の姿が見えなくなるまで見送った。
そして、すぐさま近くの公衆トイレに駆け込んのだった。
そして、間もなくすると
「ちくしょう…………っ!!琴里ぃ……」
ガラスが割れそうな音共に1人の元恋人の名前を呼ぶ声が、駅前の公衆トイレの中から響き渡るのだった。
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