第5話 “ 幸せ”の崩落に要注意

「でさ、友徳とものりがこの前学校でずっとチャック開けっ放しなの気づかなくてさー」

「あはは、西沢くんってばおっちょこちょいさんだね」

「おっちょこちょいで済ませていいのか分からないくらいのドジっぷりだったけどなぁ」


 陸斗りくとはコーヒーにショートケーキ、琴里ことりは紅茶にモンブランケーキと各々に好きな物を食しながら、喫茶店で談笑を続けていた。


 今名前に出た、西沢 友徳とものりという人物は陸斗と琴里のクラスメイトであり、そして陸斗にとっての親友のような人物である。


「まぁ、アイツはアイツであれがいいんだけどな」

 そう言って、フッと笑いながら外の景色を眺める陸斗。

「そうね〜。それに友徳くんと話してる時のりっくんとっても楽しそうだしね」

 そしてその様子を微笑みながら眺める琴里。


「……そう見える?」

「見える見える」

「んー……なんか納得いかない」

 陸斗は外を眺めるのをやめ、腕を組みながら何とも微妙な顔つきになる。

 とは言っても、陸斗が友徳のことを嫌っている訳では無い。

 言ってしまえば、男の友情によくある、“天邪鬼あまのじゃく”と言うやつだ。


 それをわかってるからなのか、

「そんな事言わないの。西沢くん拗ねちゃうよ〜?」

 琴里は面白おかしく言葉を返す。


「友徳が拗ねるのは別にいいかなぁ〜」

「相変わらず西沢くんには厳しいねぇ」


 お互いに冗談だと分かってるからこそ成り立つ会話であり、やはり幼馴染で恋人同士と言ったところだろう。


「それでさ、明日も日曜で休みだしどうしようか?」

 一通り、親友いじりが終わると陸斗は身を乗り出しながら琴里に予定を聞き始めた。

 すると、琴里は突如として顔を申し訳なさそうに俯かせる。

「その……ことなんだけどさ」

「なにか予定でもあるの?ならそっち優先でも」

 彼女の都合の悪そうな様子に彼なりに気を使ったのだろう、自分のことでも後回しでもいい、といった旨を琴里に伝える陸斗。



 が、琴里はブンブンと勢いよく銀の髪の毛を振り回しながら首を横に振る。

「ううん、違うの……予定とかじゃないの」

「え……どういう」

 琴里の反応に、訳が分からないと言った状態の陸斗は顔を硬直させてしまっていた。


 予定は無い。けれど、どこか都合が悪そうにする彼女に平常心でいられるほど陸斗の心は強くないのだから、訳の分からない表情をしても仕方ないというものだ。


「……私の勝手でゴメンね、りっくん」

「あの、話が見えないんだけど……。琴里の勝手でって、どういうこと……?」

「ゴメンね……。ホントごめんね、りっくん」

「さっきから一体何に謝ってるの……?」

 先程からひたすらに謝る琴里と、これといってピンと来てない陸斗。


 いや、実は陸斗自身、気づいてるものがあるのかもしれない。だからこそ、知りたくないからこそ、何かの間違いであって欲しいと思うからこそ、先延ばしにしようとしてるのかもしれない。



 けれど、先延ばしにしたところで事実が変わることはなく


「陸斗が悪い訳じゃないの。全部……私が悪いの……。私がこれ以上は耐えられないの。だから……」


 ほんの数分までの幸せな時間は


「別れましょう……?」



 こうも簡単に崩れ去ってしまうのだった。

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