第4話 彼女の隠し事
「そういえばさ、琴里ちゃん。今更聞くことなんだけどさ」
「ん?なんの事?」
ゲームセンターでのイチャイチャを程々に済ませ、いつの間にか周りを囲んでいた人達に生暖かい目で見送られると、陸斗と琴里は休憩がてら喫茶店で休憩していた。
「それ」
そう言って、陸斗は
「あー……やっぱ気になる?」
琴里が先程から、移動中であっても両腕で抱え持って、今現在も彼女に大事に扱われているをクマのぬいぐるみを指さす。
「室内なのに長袖捲らないんだなぁって今更ながら思ってさ」
正確には、相も変わらず室内だと言うのに肌の露出を抑えている彼女の腕のようだった。
「室内でもいつ緊急で外出るか分からないじゃない?だから極力腕は出さないようにしてるの」
「緊急事態を見越しての行動だったんだね。凄いや、琴里ちゃんは」
琴里曰く、生まれつき肌が弱いらしくどんな時であっても外出する際には肌の露出を抑えるべく長袖を常に着用している。
唯一肌を出している手や顔には、日焼け止めクリームをしているのだろうか、綺麗で真っ白な状態が保たれているのだ。
そんな状態が、琴里自身はあまり好ましく思っていないようで
「そんなことないよ。私が弱くなければ、こんなことしなくても良かったのに」
突然、遠くを見るような目になり始めた。
そんな時だった。
「皮膚が弱いのは別に琴里ちゃんのせいとかじゃないと思うけど」
真面目な陸斗が真剣な表情で琴里をじーっと見る。
「ううん、違うのりっくん。私が弱いからなの。わたしが悪いから……」
それでも琴里は何故か自分を卑下しようとするが
「それにさ」
「それに、どうしたの……?」
陸斗の次の言葉で琴里の心を貫いた。
「肌が弱いのも、それを克服しようとしてるのも琴里ちゃんで、そんな琴里ちゃんが俺は好きだよ」
「りっくん……」
あまりにもベタな恋人からのセリフに、いやベタだからこそ、飾らないありのままの陸斗からの言葉だったこそ琴里の心を貫いたのだろう。
陸斗に見えないように深く俯く琴里だったが、それはあまりにもだらしなくニヤついてしまう顔を隠すためであった。
そして陸斗は彼女が落ち着くのをひたすら心配そうにワタワタしながらも見守っていた。
やがて心を落ち着かせたのか
「……ゴメンね!暗い話しちゃって。せっかくのりっくんとのデートなのに」
そう言って琴里は仕切り直した。
「いや、俺こそごめん。不用心に聞くことじゃなかったね。次は気をつけるよ」
「りっくんは真面目だね〜。見習わなきゃ」
お互いに謝り、琴里が陸斗の真面目な面を見直したところでお互いに頼んでいたコーヒーや紅茶、ケーキなどがテーブルの上に並べられた。
自分の目の前に並べられた紅茶とモンブランを見つめながら
「ほんと……。見習わなきゃ、なぁ……」
と、目の前の恋人に聞こえないように、独り言を言うと間もなくして、フォークを握りモンブランの頂点を掬うのだった。
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