第2話 鈍感なりの鋭さ

「はぁ……どうしよう……ちゃんと話した方がいいよね」

 最寄りの駅から少し歩いたところにあるショッピングモール。その中にある噴水広場のベンチに座っている長袖の水色ワンピースをまとった銀髪ロングヘアの美少女が、何やらブツブツと呟いていた。


 そんな彼女の元にある少年がやってきてそのまま話しかけた。

「何か悩み事でもあるの?」

「……っ!!」

「どうしたのさ、琴里ちゃん。そんなに驚いて」


 話しかけた途端ギョッとした表情で銀髪の美少女、もとい、櫛形くしがた 琴里ことりが自身の恋人である 鷹峰たかみね 陸斗りくとの顔を見る。

 陸斗はまさか恋人である琴里に驚かれるとは思わず、彼自身もこれまた驚いていた。


「いや、りっくんが思ったより待ち合わせ場所に来るのが早くてつい」

 そう言って、陸斗に驚いた理由を説明する琴里。

 そしてそれを陸斗は真に受けたのか

「琴里ちゃんにびっくりされるほど早くないよ。と言うよりも琴里ちゃんの方が早いじゃん」

 特に気にする様子もなく、そのまま話を進めた。


 言葉そのままを受け取るのが陸斗のいい所でもあり、そして悪い所でもあった。


 先程の独り言に聞かれてなかったと琴里は思ったのだろう

「りっくんとのデートが楽しみでちょっと早く来ちゃったの」

 そう言って琴里も話を進めることにした。


「そ、そう?そう言われるとちょっと嬉しいな」

「えへへへ」

 そして特に引っかかること無く陸斗と琴里は恋人らしく微笑み合っていた。

「ホントなら姉貴に止められなかったら、もっと早く到着してたはずなんだけどね」

 陸斗が余計なことを言うまでは。


美海みうちゃんと、何を話したの……?」

 途端に笑顔のまま表情が固まる琴里。

 それに陸斗は気づいていないのか

「ん?いや、別に大したことは話してないよ。『 今日は何かいい事でもあったのかい?』って言われたから今からデートしてくるって言っただけ」

 聞かれたことをそのまま答える。

「……本当にそれだけ?」

 美海と何かあるのだろうか、琴里は何かと陸斗と美海の会話が気になるようだ。

 笑顔も次第に解除され、彼女の表情には焦りと似たようなものが見える。

 だがそれでも、陸斗は気にする素振りを見せずに、彼女からの質問を必死に考えていた。

 どうあっても真面目な陸斗ならではの視界の狭さなのだろう。


「あー、でも気になる言い方してたな」

「なんて?美海ちゃんなんて言ってたの?」

「妙に気にするね。……何かあるの?」

 ここまで何度も同じようなことを聞かれれば、鈍感な陸斗であっても流石に違和感を覚えたのだろう。

 ようやく陸斗は琴里の焦っている表情を目の当たりにした。

「……何も無いよ。りっくんが美海ちゃんと普段どんな話をしてるのか気になるだけ」

 そう言いながら、琴里は陸斗から視線を逸らす。


 明らかに嘘だと分かる彼女の仕草だが……

「そう?ならいいんだけど。えーっとな……」

 やはり陸斗は言葉をそのまま素直に受け取ったのであった。


 当然、陸斗が考え事を再び始めた隙に彼女が安堵のため息をついていたことは本人は知る由もなかった。


 やがて、なにか思い出したのか口を開く陸斗。

「あー、そうそう。プラトニックって言葉に妙に反応してたな」

「……っ!」

 陸斗の言葉にこれまた心当たりがあるのか、また顔色が悪くなる。

「……本当に大丈夫?なんか顔色悪いけど」

 流石にこう何度も様子がおかしくなれば、考え事をしてようが恋人の異変にも気づくものだろう。

 そして、琴里自身も陸斗に大事にされていることを分かっていた。


 だからこそ、恋人だからこそ、踏み込んで欲しくないところがあるのだろうか。

「大丈夫よ。女の子の“アレ”だから」

 そう言って琴里はこれ以上の陸斗からの追求を避けようする。


「あっ……。ごめん、デリカシーなかったね」

「ううん、いいの!男の子のりっくんなら分からなくても仕方ないものね」

 そう言われると、陸斗は俯き黙ってしまった。

 何を言ってもデリカシーに触れてしまうと思っているのだろう。


 そんなどんな時だって真面目で自分のことをしっかりと考えてくれてる陸斗に琴里は愛おしいと思うのだった。


 そのまましばらく落ち込む彼を見続けてやがて何か満たされたものがあったのだろうか

「それよりも、デート行こっ?楽しみにしてたのは本当なんだから!」

 先程までとは一転し、普段の様子の彼女と戻った琴里は、項垂れてる陸斗をひょこっと覗き込む。

「えっ、でも体調悪いなら少し休んだ方が」

 嘘のように元気になった琴里を心配する陸斗。


 先程まで恋人が深刻そうな表情をしていて、挙句に生理とまで言われれば、真面目な陸斗でなくても心配になるだろう。


 それでも

「私はもう大丈夫だから。それともりっくんは、私とのデートはイヤ?」

「そんなんじゃないって!わかったよ、琴里ちゃんが大丈夫って言うなら今すぐにでも行こう!」

「そう来なくっちゃ!」

 可愛い恋人にせがまれてしまえば、ホイホイと乗っかってしまうのが男の性というものだろう。


 こういう駆け引きは男性よりも女性の方が強いのだろう。

 結局、陸斗は琴里のペースに乗せられっぱなしなのであった。



 けれど、琴里は1つ勘違いをしていた。

「楽しみにしてた“のは”本当……か。気の所為だよな……?それに話って一体なんだろう……」

 いくら鈍感な陸斗であろうとも、気づくものもあるのである……。

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