第85話 協力してもいいよ

 お姉ちゃんの言葉にわたしは膝の上で拳を握り締めた。

 お姉ちゃんは決して悪くない。

 だけどお姉ちゃんの言うプロデューサーは、多分嫌な人だ。

 多分、そのプロデューサーは伊井田先生が電話をした相手だろう。

 正当な方法では『ホエールズ・ラボ』の特集が組めない。だから手芸部に潜入して『ホエールズ・ラボ』を探す……と考えているのかもしれない。

 実際は分からないけど、そんな事をされたら文化祭の二の舞だ。

 するとCMが流れてきて、テキトーにチャンネルを変えたお姉ちゃんが言ってきた。

「あっ! 陽奈(ひな)ちゃんのお兄さんだ~!」

 テレビ画面には『CHARMUSE』のメンバーの一人のお兄さんが映っていた。

 右上には『国民的アイドルの兄、テレビ初顔出し!』というテロップが貼られている。

「うわ~っ、すっごいイケメンだ~! やっぱり兄妹なんだな~!」

「空手家なんてカッコいいわね」

 すると陽奈さんのお兄さんが、木製バットを脚で折って見せると言い出した。

『押忍! せいッ!!』

 気合いを入れた力強い蹴りが繰り出される。

 木製バットなんて一溜まりもなく、簡単にへし折られてしまった。

「うわあっ、すごい威力ね!」

「だね~! 一般人なのによくテレビに出てくれたな~!」

「…………!」

 この人、俳優とか、スポーツ選手とかじゃないんだ。

 画面の向こうでアイドルの妹と笑い合っている男の人に、わたしは見入ってしまった。

「……これだ」

「えっ? マリア~、どうしたの~?」

 お姉ちゃんに声をかけられて、わたしはお姉ちゃんの方へ振り返る。

「お姉ちゃん。プロデューサーさんの企画作り、協力してもいいよ」

「え?」

 素っ頓狂な顔をしたお姉ちゃんに、わたしは力強く微笑む事で覚悟を決めた。

 また梓先輩をネット上の見世物なんかにしない!

 わたしはお姉ちゃんに耳打ちで“ある提案”をしてみた。

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