第83話 CHARMUSE
わたしは首を傾げつつも、伊井田先生と家庭科室に入って行った。
「皆、ちょっと集まってくれるかな」
「どうしたんすか?」
梓先輩を始め、先輩たちも集まってくると伊井田先生は話し出してきた。
「『SUNSET(サンセット)』という夕方のニュース番組を知っているか?」
あっ、お姉ちゃんが出てる番組だ。
わたしは思わず零しそうになったものの、必死に堪えた。
お姉ちゃんがセンターを務める五人組アイドルグループ「CHARMUSE(チャーミューズ)」。
『CHARMUSE』が地元で有名な高校生や部活動を紹介するミニコーナーがあるのが、『SUNSET』だ。
その番組がどうかしたんだろう?
すると伊井田先生はどこか誇らしそうに皆に言ってきた。
「さっき電話があったんだが、来週の放課後に手芸部を取材させて欲しいそうだ!」
「ええっ!?」
思わず声を上げてしまった。
嘘でしょ、お姉ちゃんたちが取材に!?
わたしは何も言えずにいたけど、先輩たちは大盛り上がりだった。
「えーっ!? マジですか!?」
「すごーい! 『CHARMUSE』に会えるーっ!」
「やったー! 親に自慢しちゃおう!」
テンションマックスな先輩たちにわたしは恐る恐る尋ねた。
「皆さん、『CHARMUSE』お好きなんですね」
わたしの言葉に先輩たちは愚問と言わんばかりに答えてきた。
「そりゃそうでしょ!? だって皆、可愛いじゃん!」
「えっ、皆は推し誰!? あたしはうららちゃん!」
「うち、リーチェちゃん! 見てると、元気が出るんだよねー!」
お姉ちゃんの愛称が出てきて、わたしは思わずギクッとしてしまった。
「へ、へぇー、そうなんですねー」
愛想笑いを浮かべて、当たり障りなく頷く。
お願いだからお姉ちゃんが取材に来ませんように!
わたしが祈っていると、梓先輩はどこか怯えるように伊井田先生に尋ねた。
「先生、なんで急に取材なんて来たんすか……?」
確かにそうだ。
わたしも気になって伊井田先生の方を見ると、先生は少し言いづらそうに言ってきた。
「元々ルピナス学園には取材に来たいと思っていたらしいんだ。けれど……どうやら、文化祭の時の騒ぎを目にしたらしくてね……。『ぜひ手芸部を取材させて欲しい』と」
「……先生はなんて答えたんすか?」
「『「ホエールズ・ラボ」の名前を出さないならいいですよ』ってお受けしたよ。せっかくの機会だからね」
伊井田先生の言葉に、梓先輩はこの上なく顔を真っ青にさせた。
頭を抱えて、ふらふらとした足取りで椅子に座ると、
「なんで受けたんすかー……」
梓先輩はへなへなっと机に突っ伏して呟いた。
わたしは梓先輩になんて声をかけていいのか、分からなかった。
文化祭の時、河田先生のせいでTwitter上は大騒ぎになってしまった。
あの時の梓先輩は身バレに対して相当怯えていた。
いくら「梓先輩=ホエールズ・ラボ」にならないように対策をしても、不安はあるだろう。
「ああ……嫌だなー」
わたしは深く溜息をついた梓先輩の丸まった背中を見つめる事しか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます