第71話 賑やかで楽しい赤坂家

 すると部屋の外から男の人の声がかかってきた。

「二人とも、騒がしいぞ。どうしたんだ?」

 顔を出してきたのは、シュッとした長身の強面な男性だった。

 その男性に梓先輩のお母さんは甘えるネコのように助けを求めた。

「樹さぁ~んっ、梓くんが女の子を部屋に連れてイチャイチャしないのよぉ~っ」

「ったりめぇだろうがッ!! つーか息子の部屋を覗き見してんじゃねぇよ!! 親父からも何とか言ってくれッ!」

 『親父』と呼ばれた男性は慣れた様子で二人を宥めた。

「まあまあ、二人とも落ち着け。とりあえず桜さん、覗き見は駄目ですよ」

「えぇ~っ、面白いところだったのにぃ」

「駄目なものは駄目です」

 なんだか……幼稚園児と保育士みたいな夫婦だな。

 わたしは茫然としていると、梓先輩のお父さんは梓先輩のお母さんを抱き起した。

「あとで俺とイチャイチャしましょう、だから覗き見はしないでください」

「もぉ~っ、樹さん、大好きぃ~!」

 梓先輩のお母さんは梓先輩のお父さんに抱き付くと、梓先輩のお父さんはやれやれと言わんばかりに頭を撫でた。

 わたしは唖然としていると、梓先輩が右手を立てて申し訳なさそうな顔をした。

 口だけで「悪ぃ」と言っている。

 わたしは静かに頷くと、梓先輩のお父さんが梓先輩に言ってきた。

「梓、そろそろ夕飯を作ってくれないか?」

「……わぁーったよ。作るから母さん見張っといてくれ」

「分かった。じゃあ先にリビングに言ってるぞ」

「ああ」

 梓先輩が不機嫌そうに頷くと、二人は一階へ降りて行った。

 その様子を見送った梓先輩は、崩れ落ちながら溜息をついた。

 なんだか、一癖も二癖もある人たちだなぁ……。

 わたしは唖然としたままでいると、梓先輩はくたびれたように言ってきた。

「マジで悪ぃ……恥ずかしいもん見せちまって」

「梓先輩のご両親っていつもイチャイチャしてるんですか?」

「……まあな。人前じゃやめろっつってんだけど……」

 梓先輩は心底恥ずかしそうに顔を俯かせて吐き捨てた。

 わたしは気になる事があって、梓先輩に尋ねてみた。

「梓先輩のご両親って、純粋な日本人ですよね?」

「そうだけど……なんでだ?」

「なんか、うちの両親や祖父母を見てるみたいだなーって、びっくりしました」

 ママもおばあちゃんも、パパやおじいちゃんとよくイチャイチしている。

 うちだと普通の光景で、友達に言うとだいたい驚かれるから日本じゃないものだと思っていた。

 わたしが何気なく言うと、梓先輩は目を真ん丸にした。

「……マジで?」

「はい」

 わたしがはっきりと頷くと、今度は梓先輩が呆然としてしまった。

 梓先輩は恥ずかしがっているけど、ひとつだけ分かった事がある。

 きっと、いつも賑やかで楽しい家族なんだろうな。

 わたしの家族とも通じるところがあって、わたしにとって居心地は悪くなかった。

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