第64話 追いたまごチャレンジ

 翌日。

 帰りのバスの時間まで時間があるので、最後にお土産などを見て回る事になった。

 わたしと梓先輩、翔真先輩は名物の温泉卵を買うと、外にある細長いテーブルのようなところで食べてみた。

 カップに割り入れて出汁をかけ、プラスチックのスプーンで一口食べてみる。

「美味しい! 黄身美味しいですよ!」

 濃厚な黄身と、とろっとろの白身。繊細な出汁の風味と外の空気が合わさり、最高な味わいになっている。

「えっ、マジで~?」

 わたしの右隣にいる翔真先輩がワクワクしたような顔で言うと、温泉卵を直接飲み込んだ。

「もうちょっと味わえよ……」

 わたしの左隣にいる梓先輩は呆れたように呟くと、翔真先輩は目を見開いた。

「うんまいっ! めっちゃうんまい! 何これ!?」

「ですよね!」

「もっと食べたいかも! 買って来るから少し待ってて~」

 お気に召した翔真先輩は再び売店の中へ入って行った。

 その後ろ姿を見送ると、梓先輩は黄身をすくいながら呟いた。

「すげぇ気に入ったな、ショウのやつ」

 と言いつつ、梓先輩も温泉卵を口にしたら幸せそうな笑みを浮かべている。

「わたしもお土産で持って帰ろうかなー」

「いいんじゃね」

 すると梓先輩は心配そうに呟いた。

「ショウのやつ、『追いたまごチャレンジ』とか言って何個も買わなきゃいいけど……」

「あー……確かに」

 小学時代からユーチューバーを志していた翔真先輩の事だ。もしかしたらやりかねない……、と思っていると翔真先輩がビニール袋を持って戻って来た。

「イエーイ! 追いたまごチャレンジ~!」

「絶対やると思った!」

 梓先輩の予感は的中してしまった。

 さすが幼馴染……、わたしは茫然としてしまった。

「お前、何個買って来たんだよ!?」

「え~っと……」

 翔真先輩はビニール袋の中身を確認した。

 何個買ったかも覚えてないの……? わたしは思わず顔を真っ青にしてしまった。

 数え終えると、翔真先輩は明るく個数を告げた。

「七個だな!」

「どんだけ買ってんだよっ! 帰り道で酔うぞ!?」

「だってめちゃくちゃ美味かったし! さすがに今全部食わねえって~。お土産お土産~」

 なら良かった……、わたしは胸を撫で下ろした。

 だけど安堵したのも束の間、翔真先輩は三つも温泉卵を取り出した。

計四個である。

「マジで食いすぎだろ、ショウ」

「アズが少食なだけだって~」

「んなことねぇよ」

 本人は否定したけど、確かに梓先輩は少食かもしれない。

 昨日の夜、皆で買い食いをした時も、今朝の旅館のご飯も翔真先輩ほど食べていなかった。

一般男性の摂取量が分からないけど、単に翔真先輩が細身なわりに大食いなだけかもしれない。だけど差し引いても梓先輩はあまり食べていなかった気がする。

 あっという間に温泉卵を食べ終えると、翔真先輩は隣の売店を呼び出した。

「あっ! 激辛おかきだって! 食べに行こうぜ!」

「えぇ……激辛?」

 梓先輩はあからさまに嫌そうな顔をした。

 梓先輩、苦いのは嫌いって知ってたけど、辛いのも苦手なんだな……まあ、わたしも苦手だけど。

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