第62話 オレと組んだらお前は無敵だ!
わたしは梓先輩の話にデジャヴを覚えた。
「その話……翔真先輩から聞きました」
「はあ!? いつ!? なんで!?」
梓先輩はこの上なく驚いたように追及してくる。
わたしは戸惑いつつも思い返しながら答えた。
「文化祭の時に、梓先輩の話をしていたらちょろっと……」
「あの野郎……! あとでシバく」
恥ずかしそうにと言ったものの、梓先輩は思い出したようにふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「……まあ、あいつのおかげで今の俺がいるんだけどな」
「…………?」
わたしは首を傾げると、梓先輩は続ける。
「その女子のせいで俺は編み物をやってるって、大っぴらにに言えなくなっちまったんけど、小三の時だったかな……? 翔真が隣の家に引っ越してきたんだ。その頃からあいつはユーチューバーになりたいって言ってて、色々ネタ収集してたな。俺が編み物やってるって知っても『すげえじゃん! 男子が編み物してるなんて話題になるよ!』って言ってたくらいに……。あいつにとって、『変わってる=面白さ』だったんだよ。あの言葉には……けっこう救われた」
梓先輩は昔を懐かしむように穏やかな声音で呟いた。
「翔真のおかげでクラスの皆も俺が編み物やってるっていうのを受け入れてくれたんだ。小六くらいには自由研究でセーターとか編んだし、現在進行形でずげぇ楽しいんだ。ユーチューバーを始めたは、ショウに誘われたってのもあるけど……俺的には、ショウへの恩返しって意味合いの方が強いかな」
「なんで翔真先輩は梓先輩を誘ったんですか? 翔真先輩だけでもユーチューバーは出来そうですけど……」
「俺も思った」
すると梓先輩は思い出すように脳紺色の空を見つめながら言葉を紡いだ。
「『オレはパソコンやゲームは得意だけど、ずば抜けて得意ってわけじゃない。だけどアズにはずば抜けた才能がある。オレと組んだらお前は無敵だ!』って、少年漫画みたいな事は言われたな。ユーチューバーに誘われた時に」
「た、確かに……。けど、カッコいいですね」
お互いを認め合える仲である事がものすごく羨ましかった。
翔真先輩は梓先輩の事を誰よりも認めている。
梓先輩にとっても翔真先輩が自分らしくいられる居場所……。
「じゃあ、ユーチューバーにはなるべくしてなった、って事ですね」
「まあ、そんなところだな」
「けど……ならどうして睡眠不足になるくらい無理したんですか?」
わたしが尋ねると、梓先輩は悔しそうに目を伏せた。
思わず首を傾げると、梓先輩は溜息をついた。
「……この前の文化祭のせいで、今まで以上のアンチが来たんだよ」
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