第59話 肩、揉んであげましょうか?
翔真先輩を見送ると、わたしは梓先輩に向き直った。
さっきは色々驚いてしまったが、改めて見ると梓先輩の浴衣姿はやっぱり新鮮だった。
暑いからか浴衣の胸元が少し開けていて、シュッと引き締まった体がチラッと見える。けっこう逞しいから、元運動部とかなのだろうか。
照明が眩しいのか、目元は腕で隠されてしまっている。その気だるげな様がやっぱり色っぽくて、なんだかドキドキしてしまった。
するとあまりにも見つめ過ぎたのか、梓先輩はくすぐったそうに言ってきた。
「……なにみてんだよ……」
「いえ、梓先輩ってけっこう体格いいんだなーって」
「……みてんじゃねぇよ……」
梓先輩は恥ずかしそうに呟くと、浴衣の胸元をきゅっと握った。
なんだか微笑ましくて、わたしは笑みを浮かべると、梓先輩に聞いてみた。
「梓先輩って何かスポーツとかやってたんですか?」
「……バスケ、やってた……」
とろんと小さく呟いた梓先輩の言葉にわたしは目を見張った。
「へぇー、すごい! 大会とか出てたんですか?」
「いや……じゃくしょうぶだったからな……」
だけど、なんだか想像出来た。
梓先輩は運動神経が良さそうだから、スリーポイントシュートとかも決めそうだ。
カッコイイんだろうな、わたしは活躍している梓先輩を想像して思わずニヤついてしまった。
すると少しだけ顔色が良くなった梓先輩はのっそりと起き上がった。
立ち上がろうとしたものの、すぐにふらっとしてしまってその場にしゃがみ込んでしまった。
「ちょっ!? 何してるんですか、先輩!?」
「……楽になったから、何か編もうかなと……」
「駄目です! ちゃんと休んでくださいっ! 翔真先輩に言われたでしょ!?」
わたしは口調を強くして言ったけど、梓先輩はひそりと言ってきた。
「……内緒にしてくんね?」
「駄・目・で・す!」
わたしはさらに強調して告げた。
梓先輩はいじけた子供のように唇を尖らせて呟いた。
「……ケチ」
「ケチで結構です。自分の体を大事にしてください」
「…………」
完全に拗ねたように梓先輩は黙り込んでしまった。
わたしは息をつくと、半ば呆れながら梓先輩に尋ねた。
「先輩、どうして無理するんですか? 旅行の時くらいゆっくりすればいいのに……」
「……別にいいだろ」
そっぽを向かれてしまったが、わたしは追究する。
「足湯の時もうたた寝したじゃないですか。絶対に疲れてますよね?」
「その事は言うじゃねぇよ……っ! つーか別に疲れてねぇし」
頑なに認めない梓先輩にわたしは思わず溜息をついた。
どうしたら口を割ってくれるのだろうか……、わたしは少し考えてみた。
梓先輩がこっそりと荷物に手を伸ばした瞬間、ぴかーんっと閃いた。
「梓先輩」
分かりやすくギクッと震えた梓先輩は恐る恐るわたしの方に振り返る。
「な、なんだよ……」
「肩、揉んであげましょうか? せっかくですし」
「…………は?」
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