第58話 依頼のDM

 翔真先輩が部屋のキーを開けると、真っ先に飛び込んだのは――――

「…………っ!? あ、梓先輩!?」

 整えられた布団の上でぐったりと寝込む梓先輩だった。

 全身が火照っていて、息をするのもしんどそうにしている。

 弾かれたようにわたしは梓先輩の傍に寄ると、翔真先輩に尋ねた。

「もしかして、風邪ですか!?」

 足湯に浸かった時もうたた寝したくらいだ。もしかしたらあまり体調も良くなかったんじゃ……!?

 わたしの中に立ち込める不安がどんどん色濃くなっていくと、翔真先輩は――――

「あはははっ! アズが風邪なんて引くわけないじゃん! 小学生の時に傘忘れて土砂降りの中走って帰っても、ぴんぴんしてたくらいなんだから!」

 大笑いされてしまった。

 わたしはどこか白けたような目を向けると、翔真先輩に尋ねる。

「…………じゃあ、どうしたんですか?」

「伊井田先生があまりにも長風呂だったからのぼせたんだよ。ここの温泉、けっこう温度高めだし、ずっと入り続けたらな~」

「…………」

 わたしの心配と不安に使った労力を返して欲しい。

 だけど、良かったー……!

 わたしはとりあえず安堵すると、翔真先輩に言った。

「のぼせてるだけなら最初から言ってくださいよ……」

「えっ? 言ってなかったっけ?」

「言ってないです!」

 わたしが声を上げると、梓先輩は虚ろな眼差しを翔真先輩に向けた。

「……ショウ……みず、あるか……?」

「あ~、ごめんごめん。とりあえずスポドリ買って来た。起きれるか?」

 翔真先輩の言葉に、梓先輩はしんどそうに起き上がろうとした。

 わたしは梓先輩が起き上がる補助をすると、翔真先輩からスポドリのペットボトルを受け取り、蓋を開けた。

「どうぞ」

「……あれ……なんで、くるみざわが……?」

 梓先輩が不思議そうにとろんとした眼差しを向けてくる。

 いつもと雰囲気が違うというか、なんだか色っぽい梓先輩にわたしは思わず見惚れてしまった。

 すると翔真先輩が説明してくれた。

「オレが呼んできた。アズが体調最悪なのに編み物を始めないように、な」

「……しねぇっての……」

 梓先輩は覇気のない声で力なく呟いた。

 よほど喉が渇いていたのだろう。スポドリをほとんど飲み干すと、息をつきながら布団に倒れ込んだ。

 すると梓先輩の様子を見て安心したのか、翔真先輩がわたしに言ってきた。

「じゃあクルミちゃん、悪いけど見張りよろしく」

「えっ? 翔真先輩、どこか行くんですか?」

 わたしが尋ねると、翔真先輩は申し訳なさそうに笑みを浮かべた。

「さっきTwitterから依頼のDMが来たから打ち合わせ。オレ、動画編集の仕事とかもやってんだ~」

「ええっ!? 高校生なのにもう仕事してるんですか!? すごいですね!」

「そんな人、ザラだと思うけどな~」

 翔真先輩は軽く言ったが、仕事を受けられるほどの動画編集スキルを持っているという事だ。

 やっぱりルピナス学園って、スペシャリストの集まりだなー。

 わたしは改めて実感した。

すると翔真先輩は軽く手を振りながら部屋をあとにしようとした。

「出来るだけ早く戻って来るから、よろしくな~」

「任せてください」

 わたしは力強く頷くと、翔真先輩は部屋の扉を閉めた。

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