第54話 郵送って出来ますか?

 そこまで混んでいなかったので、割とすぐに入店出来た。

 民家風の落ち着いた店内はリラックス効果がある。わたしは田舎に住んでいる父方の祖父母の家に帰った時の事を思い出した。

 注文し終えて、蕎麦が来るのを待っている間、楓ちゃんが言ってきた。

「伊井田先生、蕎麦を食べ終わったら近くの公園に行きませんか?」

「楓さん、どうして公園なの?」

 椿部長が尋ねると、楓ちゃんは気遣い満点な答えを告げた。

「その公園、足湯がたくさんあるそうなんですよ。せっかく来たんだから入らないと損だし、伊井田先生には文化祭の件でたくさんお世話になりましたし」

「おっ、いいね!」

 伊井田先生はとても嬉しそうにクシャっとした笑顔を見せた。

「あそこは風景も美しいし、あとで行ってみようか。ありがとうね、楓さん」

「いえいえ」

 楓ちゃんは男前な微笑を浮かべた。

 感謝や気遣いを当たり前のように出来る……、楓ちゃんはやっぱりイケメンだ。

 わたしは楓ちゃんと友達になれた事をものすごく誇らしく感じた。

 この温泉街のもう一つの顔とも呼べる蕎麦を堪能すると、わたしたちは温泉街の西の方にある公園へ向かった。

 道中のお土産屋さんなどにも立ち寄ったりして、のんびり気ままに進んでいく。

 するとお饅頭屋さんのおじさんが声をかけてきた。

「なあ、お嬢ちゃん。もしかして外人さんかい?」

「いえ、ハーフで日本育ちです」

 やっぱりこういう時、ハーフだといちいち説明するのは面倒くさい……。

 するとおじさんは気さくに笑いながら、トレーに乗せたお饅頭を見せてきた。

「へぇー、こりゃ別嬪さんだねぇ。どうだい、お饅頭食べるかい?」

「ええっ、いいんですか!?」

「マリアちゃん、どうしたの?」

 なかなか来ないからか、楓ちゃんが声をかけてくるとおじさんはさらに言ってきた。

「おや、お友達も別嬪さんだねぇ。良かったらお嬢ちゃんもお饅頭、食べるかい?」

「あっ、ありがとうございます! いただきます」

 わたしたちは一つずつ、小ぶりな温泉饅頭を手に取った。

 もちもちでふわふわな厚めの生地と、なめらかで甘めのこし餡は相性抜群だった。

「美味しいー! このサイズならいくらでも食べれちゃう!」

「そりゃあ嬉しいねぇ! 良かったら買っていくかい? 特別におまけしちゃうよ」

 今思うと、とても商売上手なおじさんだったと思う。

 だけど後悔させないくらい美味しかったし、わたしと楓ちゃんは気に入って二箱ずつ買った。

 あまりにも気に入ったので、わたしはおじさんに尋ねてみた。

「このお饅頭、郵送って出来ますか?」

 今、ライブツアーを頑張っているお姉ちゃんにも食べさせたい。

 気さくなおじさんのお饅頭は、疲れなんて吹っ飛ばしてくれるに違いない。

 そう思わせるくらい、思わず元気が出るような味だった。

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