第41話 丸く収まった、か……

 家庭科室はTwitterのせいで超満員になってしまっていた。

 そして七割以上のお客さんがわたしたちに聞いてくる。

「あの! 『ホエールズ・ラボ』さんはいますか!?」

「すんません、今日休んでて……」

 受付兼会計用の机に座っていたわたしは申し訳なさそうに答えた。

『ホエールズ・ラボ』は風邪を引いて、今日は休んでいる。

 翔真先輩の提案だった。

 お客さんに『ホエールズ・ラボ』について聞かれたらそう答えるよう、部員全員で打ち合わせをした。

 打ち合わせをしていて良かった、と今では思う。

 さっきから『ホエールズ・ラボ』さんのファンから幾度となく聞かれるのだ。

 ロリータ女性はガッカリしたように肩を落として言ってきた。

「そ、そうですか……。じゃあ、シロクマのあみぐるみください」

「ありがとうございます、二百円です」

 わたしはロリータ女性から二百円を受け取ると、紙袋に入れて手渡した。

 ロリータ女性は嬉しそうではあったものの、どこか寂しそうに去って行った。

 せっかく来てくれたのに嘘をつくのは心苦しい。

 だけど梓先輩の為を考えると、正直に答える訳にもいかない。

 板挟みになってしまって、わたしはせっかくの文化祭を楽しめそうになかった。

「クルミちゃん、お待たせ~」

 飲み物を買いに行った翔真先輩が戻って来た。

「はい、麦茶で良かった?」

 ペットボトルを渡されて、わたしは驚いてしまった。

「えっ!? わたし、頼んでないんですけど……」

「奢り。今朝から面倒事に巻き込んじゃったし、昨日だって」

「昨日…………あっ!」

 思い出してしまった。

 こそばゆくなった左耳に触れてしまう。

 急に顔が熱くなってきて、わたしは顔を俯かせてペットボトルのキャップを開けた。

「本当に梓先輩ってば……何を考えてたんでしょうか」

 わたしは恥ずかしそうに呟くと、ちびちびと麦茶を飲み出す。

 翔真先輩はわたしの隣にあった椅子に腰かけて、尋ねてきた。

「やっぱクルミちゃん……恥ずかしかった?」

「当たり前じゃないですかっ!」

 わたしはペットボトルの蓋を閉めながら声を上げた。

「緊急事態だからって、お、お姫様抱っこなんて……!」

「お姫様抱っこにはマジでオレもびっくりした」

「まあ丸く収まったから良かったですけど、まさか梓先輩にあんな強引な所があったなんて……ちょっと嫌いになりそうでしたよ」

 わたしは何気なく呟いたつもりだった。

 わたしの言葉に何故か翔真先輩は急に黙り込んでしまった。

「……翔真先輩?」

 てっきり笑い飛ばしてくれるものかと思っていた。

 翔真は感慨深げに呟いた。

「丸く収まった、か……。一年生はいい子が多いんだな」

「えっ?」

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