第40話 守れなければ、廃部
翔真先輩が河田先生の腕を引っ張って来る。
先輩たちは立ち上がって、翔真先輩に説明を求めた。
「翔真! 『先生だ!』ってどういう事!?」
「昨日の販売中に先生がお客にポロって零したんだよッ! 『ホエールズ・ラボが作ったので』って!」
「はあッ!? 何やってるんですかッ!」
先輩に責め立てられて、河田先生はバツが悪そうな顔をした。
だけど一切反省はしていなかった。
「実際そうじゃないですか。そもそも高校生の分際でユーチューバーなんてしているのがいけないんです……。だから私はユーチューバー部廃部を推奨していたんですよ」
ユーチューバー部には縛りが多いと翔真先輩から聞いた事がある。
守れなければ、廃部。
楽しくも危険なネットの海に身を投げるのだ。存続は常に危ない綱渡り状態だという。
だけど厳しいルールの根底にあるのは、教師たちが生徒を思う心。
そうだと、思っていたのに……。
河田先生の言い分は、ただ責任を負いたくない大人のワガママだ。
「ふざけないでよッ! そんな言い訳が立つって本気で思ってるの!?」
「梓くんが手元しか動画で上げてないのは先生だって知ってるでしょ!?」
先輩たちが梓先輩の弁護をする中、先生は依然と態度を崩さない。
「赤坂さんのTwitterを見ましたが、紹介文に高校生と明記していましたよね? モラルが分かっていない方が問題なのでは?」
「責任転嫁すんじゃねえよッ!!」
翔真先輩が堪え切れなくなったように怒鳴りつける。
「学校名なんてどこに書いてあった!? あんたがうっかり『ホエールズ・ラボ』の名前を出さなきゃこんな事にはならなかったんだよ!」
「……黙りなさい」
河田先生は小さく唸ったけど、翔真先輩は止まらなかった。
「昨日だって緊急事態だったのに梓を頭ごなしに説教しやがって……ッ。仮にも教師なら自分の保身の事ばっか考えてんじゃねぇよッ、このバカワタが!!」
ピリピリした空気が、凍り付いた。
今まで裏で言われ続けていた先生の蔑称。
だけど……このタイミングはまずい。
「ば、バカワタ、ですって……!?」
河田先生は信じられない、と言わんばかりに目を見開いた。
次第に表情は紅潮していき、殺気立った怒気を露わにした。
「黙って聞いていれば好き勝手言って……ッ! あなたたちのせいで私がどれだけ先生方に白い目を向けられてきたと思っているの! 『部員が少ない』って言うからわざわざファッションショーにエントリーしたのに、今度は『勝手な事をするな』って……ッ」
翔真先輩は河田先生の言い分に呆れ果て、冷淡な目を向けた。
「白い目を向けられたのはあんたに教師としての能力がなさ過ぎるだけだろ。マジで責任転嫁しか能がねえんだな、バカワタ」
「黙りなさいッ! 私は教師なのよ!? その気になればこんな無駄にお金だけかかるしょうもない部活、いつでも廃部に出来るのよ!?」
しょ、しょうもないって……!
教師の言葉とは思えない罵詈雑言。
手芸部ごと否定されて、わたしは大きなショックを受けた。
せっかくの文化祭なのに……こんな険悪なムードなんて、嫌だ。
嫌でも鼻の奥がツーンと痺れてしまう。
わたしが泣く必要なんてないのに……!
河田先生はこの上なく軽蔑するような目をして、わたしたちに告げた。
「あまり学校の評判を下げるようなことはしないでください」
何事もなかったように去って行った河田先生の背中は、いつも以上にピリピリしていた。
わたしはすぐに梓先輩の方を見た。
ずっと黙って座っていた梓先輩のパーカーの袖には、何故か不自然なシミがあった。
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