文化祭編2

第39話 奇異な目

 文化祭初日は無事に終了した。

 色々ドタバタはあったものの、とても賑やかで、照れくさくて、楽しい一日だった。

「はぁー……」

 自室のベッドに倒れ込んで息をつく。

 部屋の天井を見上げながら、わたしは感慨深げに思い返した。

 わたし……本当にファッションショーに出たんだ。

 クラスでの反省会の時の事だ。

 わたしの代打と梓先輩の飛び入り参加は、学園内でも話題になってしまった。

 だけど皆に口を揃えて言われたのは……

「本当にびっくりしちゃったよ! めちゃくちゃ綺麗だった!」

 しばらく話題にはされそうだけど、奇異な目では見られなさそうだ。

 わたしは枕元に置いたスクールバッグのペンギンホーちゃんを指で突っついた。

 あの時は急にお姫様抱っこされて驚いたけど……やっぱりすごい人なんだなぁ。

 わたしは改めて梓先輩の凄さを目の当たりにしたような気がした。

 今日も動画が上がっているだろうか、わたしは携帯端末を開くと……――――

「――――……えっ?」

 液晶画面に目を疑うようなツイートが表示されていた。


≪ねえ、『ホエールズ・ラボ』が高校の文化祭で出店してるらしいよ≫

≪えっ!? 『ホエールズ・ラボ』ってマジで高校生だったの!?≫

≪噂だとその高校の家庭科部、男子が多いらしいよね≫

≪まさか男子だったりして~≫

≪マジで!? 『ホエールズ・ラボ』って女性じゃなかったの!?≫

≪絶対に行って確かめなきゃ!!≫


 時刻は八時過ぎ。

 いつもは和やかな家庭科室はピリピリとした異様な空気で満ちていた。

 先輩たちは皆、Twitterを見る度に、苛ついたように溜息をつく。

 わたしもTwitterを確認したけど、結果は同じだった。

 『ホエールズ・ラボ』さんの正体に関するツイート。

 何故か昨日の放課後からバズってしまったんだ。

 しかもルピナス学園の名前まで出てしまっている。さっき職員室を覗いたら、問い合わせの電話の対応で大騒ぎになっていた。

 わたしはパイプ椅子に座る梓先輩の背中に目線をやった。

 気のせいか、小さく震えているような気がする。怖いのだろうか。

 いや、当然だ。

 あんなに人目を気にする梓先輩だ。動画では顔どころか声すら出していない。なのに、まさかこんな事になるなんて思ってもみなかっただろう。

 どうしてこうなったんだろう……、わたしは忌々しそうに液晶画面を睨みつけた。

 廊下の方から駆け足の音が響く。わたしはバッと顔を上げると、扉が乱暴に開けられた。

「分かったぞっ! 先生だ!」

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