第33話 意外と子供舌なんだな

 だけど二人のお友達は空気が読めない系の人だったようだ。

「そうだぜ? いくら苦いのが大の苦手で可愛い後輩のクラスだからってさ」

 あー……そうだったんだ。

「てめ……ッ! 胡桃沢の前で余計な事言ってんじゃねぇよ!」

「お前さ~、せっかく濁したんだから言うなよ~」

「えー? だって事実じゃんかー」

 能天気なお友達が梓先輩の怒りの炎に油を注いでいく。

 このままだとわたしにまで火の粉が降ってきそうだ。

「ただいまピッツァをお持ちしますねー」

 しばらく離れよう、わたしは踵を返してピッツァを取りに行った。

 だけど内心では意外に思った事がある。

 梓先輩……意外と子供舌なんだなー。

 先輩方の注文票に書かれていた注文は、マルゲリータ二枚とドルチェピッツァだった。

 多分、ドルチェピッツァは翔真先輩が勝手に頼んだのだろう。

 ドルチェピッツァはクリームチーズを塗った生地にバナナを乗せ、シナモンシュガーをかけたものだ。女性向けのかなり甘い味付けになっている。

 いくら甘党とはいえ梓先輩、食べられるのかな……。

 不安になりつつも先輩方のテーブルに運んだ。

「お待ち遠さまでーす」

 わたしは三枚のピッツァをテーブルに置くと、すっと身を引いて様子を窺った。

 梓先輩は拗ねたような顔をして小さく呟いた。

「俺、別に食べたかったわけじゃねぇのに……」

「昨日、パンフ見ながら『美味そう』って言ってたのは誰だよ~」

「盗み聞きかよ……趣味悪ぃな、ショウ」

 梓先輩は悪態をつきながらも、ドルチェピッツァに手を伸ばした。

 少し躊躇したものの、恐る恐る一口頬張って味わうように咀嚼する。

 すると梓先輩は、驚いたように目を見開いた。

「どした~、アズ?」

 翔真先輩の言葉に答える事なく、梓先輩は無言で食べ始めた。

 三ピース食べ終えると、タピオカカフェラテのストローを咥えた。上手にタピオカを飲むと、梓先輩はとても幸せそうな微笑を浮かべた。

 良かった。梓先輩、ものすごく喜んでくれた!

 甘党なんて意外だったけど、梓先輩の幸せそうな表情が後輩として純粋に嬉しい。

 わたしは横目で様子を窺いながら、満足げに微笑みを浮かべた。

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