第32話 人狼ゲーム

 早く報告したいとうずうずしつつも私は次のお客さんを案内しようとした。

「お待たせしま、した……」

「あっ、クルミちゃんいた! やっほ~、遊びに来たぜ~!」

 次のお客さんは、翔真先輩とそのお友達だった。

 だけど、その恰好は……――――

「翔真先輩……なんですか、その恰好」

「オレらのクラス、人狼ゲームやってるんだよ。ちなみにオレは占い師な」

 ああ、だから魔法使いみたいな恰好しているのか。

 後ろに並ぶお友達もライフルを持って、いかにもハンターみたいな恰好をしている。

 なるほど、人狼ゲームの役職のコスプレか。

「梓先輩はいないんですか?」

「いるよ~。おいアズ、いつまで隠れてるんだよ!」

「ちょ、おいッ!」

 どうやら翔真先輩の後ろに隠れていたようだ。

 翔真先輩が引っ張ると、梓先輩が姿を現した。

 その姿にわたしは言葉が出なくなってしまった。

「あ、梓先輩……」

「んだよ……あんま見んじゃねぇよ」

 恥ずかしそうに目線を泳がす梓先輩は、人狼だった。

 ファーがついた黒いコーチジャケット、ダメージのあるスキニージーンズと赤いTシャツがワイルドな印象を与える。何よりも印象的なのは、黒くて立派なケモ耳。あまりにも自然に馴染み過ぎていて、本当に頭から生えているのかと錯覚してしまった。

 どうしよう、カッコ良すぎる……ッ!

 胸の辺りがキュンッと締め付けられてしんどくなってきた。

 わたしは爽やかな正統派王子様が好みなのに……いかにも悪者っぽそうなワイルド系にときめくなんて!

 今ならオタクがアニメのキャラクターにキャーワー言っている気持ちが分かる。とにかくこれでもかというくらいに様になっていた。

「じゃ、じゃあご案内しますねー……」

 わたしはこの胸の高鳴りを必死に抑えつつ、皆さんをご案内した。

 ついでにこっそりと梓先輩に聞いてみた。

「梓先輩……あとで写真撮ってもいいですか?」

「嫌だッ!!」

 もう……本当にシャイなんだからなー。

 わたしは拗ねながらも先に受けていた注文票を確認して、飲み物を紙コップに注ぐ。

 エスプレッソ三つと、タピオカカフェラテ、か。

 男子三人なのに誰が飲むんだろう、と思いつつも先輩方にお出ししようとした。

「エスプレッソとタピオカカフェラテでーす」

 紙コップを置こうとすると、梓先輩が首を傾げた。

「なあ、誰がタピオカ頼んだんだ?」

「えっ? 注文票に、はっきり書いてありましたけど……」

 すると翔真先輩とお友達がニヤニヤしながら梓先輩に言ってきた。

「アズがトイレ行ってる間にオレが頼んどいたんだよ」

「あー! 赤坂、甘党だもんな!」

「はあ!? 何勝手な事してんだよ、ショウッ!」

 驚きと羞恥を隠し切れていない梓先輩は翔真先輩に噛みついた。

 だけど翔真先輩はどこか嬉しそうに頬杖をついた。

「アズ、今回すげ~頑張っただろ? だから奢り。文化祭の時くらい見栄張るなよ」

「ショウ……」

 翔真先輩の言葉に梓先輩は照れくさそうに頭を掻いた。

 やっぱり幼馴染なんだな……、わたしは二人の揺るぎない絆が垣間見えたような気がした。

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