第28話 本当に過去に戻れるなら

 準備や装飾などで慌ただしい家庭科室。

 隅の方の、大量のモチーフや金具などが並べられた作業机。

 わたしと楓ちゃんでグルーガンやペンチなどを用いてパーツを組み合わせていく。

 本当はわたしの仕事だったのに……。

 わたしは楓ちゃんに涙声で謝罪をした。

「楓ちゃん……本当にごめんね」

「構わないよ。だからもう謝るのはよしてくれ。もう十何回も同じセリフを聞いているよ?」

「だ、だって……」

 昨日の夜にやっていれば、もう完成していたはずだったのに……。

 どうしてわたし、朝までぐっすり寝てしまったんだろう。

 本当に過去に戻れるなら、ベッドに寝っ転がった自分を叩き起こしてやりたい。

 言い訳の余地なんてないのに、楓ちゃんは屈託なく笑ってくれた。

「むしろ真っ先に頼ってもらえて嬉しいよ。クラスやダンス部を言い訳になかなか作業を手伝えなかったから」

「か、楓ちゃん……!」

「まあ、僕は兄貴たちと違って特別手芸が得意ってわけじゃないから、力不足かもしれないけど」

 楓ちゃんのカッコよ過ぎる言葉のおかげで、申し訳なさが和らいだような気がする。

 ああもう! どうしてこんなにイケメンなの、楓ちゃんは!

 楓ちゃんの男前な優しさが心に染みて、わたしは涙が出そうになった。

「うぅっ……、本当にありがとう……!」

「マリアちゃん、今は口じゃなくて手を動かそう。もうひと踏ん張りだから」

「はいっ、頑張ります!」

 楓ちゃんが励ましてくれたおかげでわたしは俄然やる気が出た。

 わたしはバレッタの金具に毛糸で編んだ土台と飾りのリボンを付けた。

 本当に出来たんだ、わたし……。

 改めて作業机に並べられたパーツを見ると、わたしは感慨深くなった。

 上手に出来なくて先輩たちの手を煩わせる事もあったけど、諦めなくて良かった。

 バレッタにパーツを付け終えて乾燥させる。すると向こうの作業机で仕上げをしている梓先輩が目に入った。

 楓ちゃんから聞いた話によると、今回の衣装はかなりの力作らしい。

 どんな衣装なのかは、楓ちゃんも知らないらしい。だけど衣装だけに専念できるようになった先輩は、相当気合を入れて日々編み続けたそうだ。

 どんな衣装なんだろう、楽しみだな……!

 先輩の大きな背中を見つめてから、わたしはヘアアクセサリーをひたすら完成させていった。

 十三時を過ぎて、お腹が空き始めた頃だった。

 リボンをヘアゴムに縫い付けて、外れないかどうか確認する。汚くならないように糸処理をして、根本ギリギリのところで糸をチョキンッと切った。

「出来た――――っ!!」

 ヘアアクセサリーと小物、一五〇個全部出来た!!

 胸躍るような高揚感と達成感が全身を駆け巡っていく。

 わたしはパイプ椅子から立ち上がり、大きくガッツポーズした。

 すると先に終わらせていた楓ちゃんが拍手してくれた。

「お疲れ様、マリアちゃん! やり切ったね!」

「ありがとう、楓ちゃん! 本当にありがとう!」

 満面の笑みを浮かべたわたしは楓ちゃんの手を取って尽きぬ感謝を捧げた。

 わたしたちが喜んでいると、展示用作品を作っていた先輩たちから拍手喝采が巻き起こった。

「お疲れー、マリアちゃん!」

「よく頑張ったね! お疲れ様っ!」

「本当に助かったよ、ありがとう!」

 先輩たちの言葉にわたしは達成感に打ち震えた。

 数日前から感じていた、挫けそうになるほどの焦りが溶けて消えていく。

「先輩たちのおかげです、本当にありがとうございました!」

 やり切れたんだ……わたし、ちゃんとやり通せたんだ!

 ようやく実感が湧いてきて、わたしは胸の高鳴りが止まらなくない。

 本当にどうにかなってしまそうなほど舞い上がってしまった。

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