第13話 赤坂三きょうだい
知らなかった。楓ちゃんにこんな強面なお兄さんがいたなんて。
ていうかちょっと待って。楓ちゃんが椿さんの妹ってことは、まさか……――――
「あ、あの、じゃあ椿さんって……」
「姉貴の事、知ってるのか?」
逆に聞かれてしまった。
「ええーーっ!? 本当に椿さんと姉弟なんですか!?」
「そうだけど? つか『ええーーっ!?』ってどういう意味だよ」
苛ついたように睨まれて、わたしは思わず怯えてしまった。
「す、すみません、深い意味はないんです……」
「……あっそ」
不良先輩こと梓先輩は不愛想に呟くと、パイプ椅子から立ち上がった。スカジャンのポケットに手を突っ込んで、家庭科室を出て行こうとする。
「兄貴、どこに行くんだ?」
「用事」
短く答えて、梓先輩は家庭科室をあとにした。
わたしは先輩のシュッとした後ろ姿を呆然と見つめていると、楓ちゃんが言った。
「ごめん、マリアちゃん。不愛想な兄貴で……」
「ううん、大丈夫……。ちょっとびっくりしたけど」
「確かに指名手配犯みたいな顔だけど、悪い人じゃないんだ。怖がらないでくれると嬉しいよ……」
楓ちゃんの言う通り、目つきは吊り上がっていたし、頬の傷もなんだかワイルドだ。
驚きこそしたものの、わたしとしては言うほど怖くはない。だけど……
「わたし、何かしちゃったのかな……」
あのあからさまに避けるような態度。
もしかして、嫌われてしまったのだろうか。
わたしは不安になっていると、楓ちゃんは肩を竦めながら呆れてきた。
「百パーセントないから大丈夫だよ。兄貴はああ見えて臆病だからね」
「そ、そうなの……?」
「そうだよ。だからマリアちゃんが気にする必要はないよ」
楓ちゃん、お兄さんに対してはなんだかドライだな……。
わたしは楓ちゃんの塩対応に目を見張った。
すると梓先輩とは入れ違いで、ほんわかとした雰囲気の大人っぽい女子が入って来た。
「あらまあ、マリアさん! 久しぶりね、元気にしていた?」
「椿さん!」
椿さんとの再会にわたしは感激した。
梓先輩と会った時は驚きと緊張の方が勝っていた。
だけど椿さんのおかげでようやく手芸部に来た、という実感が湧いた。
すると椿さんはきょろきょろとしながら呟いた。
「楓さん、梓さんを見なかった? 先に行くって言っていたのに……」
「ついさっき出て行ったよ。用事があるとか言って」
「あらまあ……もう、せっかくマリアさんを紹介しようと思っていたのに……」
椿さんは申し訳なさそうに両手を合わせて来た。
「ごめんなさいね、マリアさん。梓さんはわたしの弟で、いつか紹介したかったんだけれど……」
「い、いえ、大丈夫です! またの機会にお願いします」
わたしは思わず恐縮して言うと、椿さんは少し安堵したように微笑んでくれた。
さっきの梓先輩、なんだかピリピリしていたし、時間を置いた方がいいよね……。
「姉さん、せっかくの仮入部なんだし、何か手芸体験させてよ」
「楓さんはいつもしているでしょう?」
楓ちゃんの言葉に椿さんは顎に指を当てて少し考え込んだ。
「けど……そうね。じゃあせっかくだし、何か編んでみましょうか」
「やったーっ! 楽しみにしてたんですよっ!」
念願の部活動にわたしはテンションが急上昇した。
やっとだ。やっと『ホエールズ・ラボ』さんみたいになれる……!
わたしはルンルン気分で椿さんと楓ちゃんと一緒に手芸部の活動を楽しんだ。
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