第12話 手芸部のヤンキー
すると楓ちゃんがわたしに声をかけた。
「ごめん、マリアちゃん。ちょっと飲み物買って来るよ。喉渇いちゃって」
「うん、行ってらっしゃい。荷物は見てるね」
楓ちゃんは頷くと、貴重品だけ持って一階にある自動販売機の方へ向かって行った。
話し相手もいなくなり、本当に退屈になってしまった。
仕方ない、Youtubeでも見ようかな。
わたしは画面の時計が一分も経っていない事に溜息をついて、Youtubeを開こうとした。
「おい」
低く、苛つくような声。
わたしはビクッと体を震わせ、恐る恐る顔を上げる。
目の前にいたのは、目つきが鋭い不良みたいな男子生徒だった。
鮮やかな赤毛を黒いヘアバンドで上げている。ルピナス学園は私服オーケーな学校だけど、スカジャンとダメージジーパンだから余計に不良っぽく見えた。おまけに左頬に傷があるし、なんだか喧嘩とかも強そうだ。
どうしよう、怖い……!
「何してんだよ、こんな所で」
「えっと、あの……しゅ、手芸部に入りたくて、その……」
「ああ、仮入部か」
ぶっきらぼうに呟くと、男子生徒は持っていた鍵を扉の鍵穴に差し込んだ。
えっ……この人、手芸部なの!?
容姿とのギャップがありすぎて、わたしは超絶びっくりしてしまった。
「おい、入らねぇの?」
「あっ、入りますっ、すみません!」
わたしは自分と楓ちゃんのスクールバッグを持って、久しぶりの家庭科室に入った。
作品が並んでない事以外は何も変わっていない。
わたしは過去の自分に夢と勇気をくれた場所に帰って来られて、歓喜するはずだった。
「テキトーに座っててくれ」
「あ、あの、部長さんは……?」
「少し遅れるらしい」
嘘でしょ……椿さんがいればまだ場が持ったかもしれなかったのに。
不良先輩は脚を組んで、無言で携帯端末をいじり始めた。
沈黙の圧に押されてしまいそうになる。わたしは恐る恐るパイプ椅子に腰かけると、微動だにせずに黙り込んでしまった。
この人、学校説明会の時にはいなかったよね……? というか、本当に手芸部員なのかな……。
緊張と、話しかけるなと訴えかけてくる圧力。
喉が完全に喉を押し潰されて、声が出ない。
どうしよう……部活の事とか、聞かなきゃ損なのに……!
家庭科室を支配する圧力に口を塞がれていると、空気を読まない明るい声が響いた。
「マリアちゃん、荷物入れてくれてありがとう」
「楓ちゃん……っ!」
わたしは思わず救いを求める子犬のような目をして振り返った。
良かった! 楓ちゃんがいればどうにか場が持つ!
沈黙から抜け出せるとわたしは安堵すると、不良先輩が声をかけた。
「なんだよ、楓。ダンス部見に行くんじゃなかったのか?」
「気が変わったんだよ。兄貴こそ携帯ばかりいじっていないで、マリアちゃんに構ってあげなよ」
「…………えっ?」
二人の友達以上にくだけた会話に、わたしは目を真ん丸にした。
ちょっと待って、兄貴って……?
わたしは混乱しつつも楓ちゃんに尋ねた。
「えっ、楓ちゃん、お兄さんいたの!?」
「あれ、言ってなかった? 紹介するよ、兄貴の梓(あずさ)」
「ええ――――っ!?」
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