第11話 初めての友達
授業が始まったとは言ったものの、一年生の初回授業はオリエンテーションばかり。六時限目なんてHR込みでも十分くらい巻きで終わってしまった。
部活まであと三十分以上もあるのかー……。
わたしは早く手芸部に行きたくてうずうずしながら、Youtubeを見ていた。
作れないけど、『ホエールズ・ラボ』さんの作品はいつ見ても癒される。どうして こんなに可愛いんだろう……、本当に素敵だなぁ。
ボケーッと作品が出来上がっていく様子を眺めていると、
「マリアちゃん」
誰かが肩を叩いて声をかけて来た。
イヤホンを外し手振り返ると、茶髪のベリーショートがボーイッシュな女の子がいた。
「あっ、楓(かえで)ちゃん!」
赤坂楓ちゃんはわたしがルピナス学園で初めて出来た友達だ。
話すようになったきっかけは、椿さんと同じ苗字だったのが気になったからだ。
聞いてみると、やっぱり椿さんの妹だった。
楓ちゃんは気さくだからその日以来、何かと話しかけてくれた。おかげで他のクラスメイトとも話せるようになったんだ。
楓ちゃんはわたしの携帯端末を覗き込んで呟いた。
「この動画、『ホエールズ・ラボ』さん?」
「そう! 今朝、新作動画上げてたんだー! アザラシのあみぐるみなんだけど、めちゃくちゃ可愛くない!?」
わたしは動画のサムネを見せると、楓ちゃんは関心を持って頷いてくれた。
「うん、ぽってりしていて可愛いね」
「だよねーっ! あー、わたしも『ホエールズ・ラボ』さんみたいになりたいなー」
「ちなみにマリアちゃんは何か作品を作ったりしたのかい?」
楓ちゃんの言葉にわたしは言葉が詰まってしまった。
き、聞かないでよー……。
わたしの反応に楓ちゃんは何か察したように謝って来た。
「な、なんかごめん……」
「ううん、大丈夫……。わたし、不器用過ぎて全然出来ないんだよね」
「まあ、編み物って難しそうだからな」
楓ちゃんの言葉にわたしは深く、大きく頷いた。
やっと授業終了のチャイムが校内に鳴った。
こんなにもチャイムが待ち遠しかったことはない。
わたしはぱあっと表情を明るくして、素早く立ち上がった。
「行くの? 手芸部」
「もちろん! 楓ちゃんは部活どうするの?」
楓ちゃんは運動神経が良さそうだから、運動部とかなんだろうな。
と予想していると、楓ちゃんは意外な返しをした。
「じゃあマリアちゃんに付いて行っちゃおうかな」
「ええっ!? いいの?」
「もちろん。マリアちゃんの話を聞いていると、手芸部も面白そうだったから」
わたしは感激して、楓ちゃんの両手を握った。
「ありがとう、楓ちゃん!」
わたしはスクールバッグを背負って、家庭科室へ向かった。
一年生のクラスは三階にある。
家庭科室は長い廊下を曲がってさらに奥の所だ。何度も下見をして、場所はばっちり把握している。
迷わず着いたのは良かったけど、さすがに早すぎた。
部活時間じゃないから家庭科室はまだ開いていなかった。
スクールバッグを置いて待ってみたものの、部員らしき人はまだ来なかった。
楓ちゃんと話をして時間を潰そうとした。だけどわたしは時間が気になって何度も携帯端末の画面を起動させた。
だけど一分ずつしか経たなくて、わたしは小さく溜息をついた。
まだ待つのかな……。
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