第9話 ペンギンホーちゃん
寒空の下、頬を打ち付ける風の鞭がちょっぴり痛い。
でもわたしは学校から家まで全力で走り続けた。
「ただいまっ!」
リビングに駆け込むと、お姉ちゃんとおばあちゃんがソファに座っていた。
「おかえり~、マリア。届いてたよ」
お姉ちゃんは立ち上がると、大きめの封筒を手渡した。
『ルピナス学園高等学校入試合否発表通知』。
運命が記された、未来への切符だ。
わたしはコートも脱がず、神妙な顔つきでソファに腰かけた。
恐る恐る封を開けて中を見ようとしたけど……手が止まってしまった。
もし、不合格だったら……。
手の震えが止まらない。
心臓が締め付けられるようで息苦しい。
目の前に薄暗い靄がかかる。
怖い……っ。
「マ~リ~アっ!」
急にお姉ちゃんがわたしの肩をパンッと叩いた。
思わずビクッと震えて振り返った。
「フレ~、フレ~、マ~リ~ア!」
目の前に現れたのはペンギンホーちゃんだった。
お姉ちゃんの応援に、わたしは思い出した。
そうだよ。わたし、ルピナス学園に行くんだ……!
わたしはお姉ちゃんに勇気をもらって、覚悟を決めた。
ゆっくり、ゆっくりと中の硬い紙を抜き出そうとした。太い筆文字が徐々に見えて来る。
わたしは一思いに抜き取って、わたしの未来を確かめた。
硬い紙の真ん中には……――――「合格」。
「……やった。やった――――っ!」
わたし、やり遂げたんだ! とうとう未来を掴んだ!
報われた努力と今までの頑張りにわたしは喜びを爆発させた。
「やったね! やったね、マリアっ! お姉ちゃん、嬉しいよ~っ!!」
お姉ちゃんは自分の事のようにわたしを抱き締めた。
そして歓喜のあまり揺さぶって来る。
わたしは笑って揺さぶられると、おばあちゃんが柔らかく、優しく微笑みを浮かべた。
「本当におめでとう、マリア」
「ありがとう、おばあちゃん!」
わたしはおばあちゃんと同じように笑顔を浮かべると、お姉ちゃんが言ってきた。
「マリア! やっと編み物が出来るね!」
「…………! うんっ!」
あの学校説明会から帰って来て、わたしはある宣言をした。
ルピナス学園への進学が決まったら、編み物を始める。
結果が出るまでは勉強に集中する、と。
やっと念願かなって、編み物を始める事が出来るようになったんだ。
ずっと、ずーっと待ち焦がれていた。勉強の息抜きにYoutubeで『ホエールズ・ラボ』さんの動画を見漁ったくらいに。
するとお姉ちゃんが提案した。
「マリア、今から手芸店行こうよ! お姉ちゃんが毛糸買ってあげる!」
「今から!?」
わたしが驚くと、おばあちゃんも賛同した。
「いいわね、ベアトリーチェ。じゃあおばあちゃんは道具を買ってあげようかね」
「本当に!? やったっ!」
ああ、やっと出来るんだ。
この半年間、わたしはずっと勉強に集中してきた。
友達付き合いとかもしなくなって、嫌がらせをされる事もあった。
やっと報われたんだ……!
わたしはうきうき気分でおばあちゃんとお姉ちゃんと一緒に手芸店へ出かけて行った。
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