第6話 ファンシーな夢の楽園

 手芸部の活動場所である家庭科室は三階の隅っこの方にあった。

 中に入ると――――ファンシーな夢の楽園に心がときめいた。

 作業机の上に置かれた作品の展示。

 ウェア、小物、人形に分けられて、どれも手作りの温かみがあって可愛かった。

「うわあ、すごい!」

 わたしは一番手前の作業机にあった人形に釘付けになった。

 編み物で出来たお洋服を着たウサギやクマもめちゃくちゃ可愛かった。だけど特にわたしの目を引いたのは大きなクジラだった。

 三十センチくらいのリアリティがあるクジラの人形。ヒレとかも立体的で、どっぷりとしたお腹も愛嬌があって可愛かった。

 わたしがクジラの人形に見惚れていると、誰かに声をかけられた。

「すごいでしょう、そのクジラさんのあみぐるみ」

 落ち着いている綺麗な声に顔を上げる。

 するとクセのないホットピンクのロングヘアが綺麗な女子生徒が歩み寄って来た。

「あなた、中学生さん? それとも留学生さん?」

「ハーフです。日本暮らしで、今日は学校見学に」

 こういう時、ハーフだと少し説明が面倒くさい。

 わたしは中学生女子の平均身長より背が高い。おまけにママ譲りの顔立ちと金髪は間違いなく外国人に見られる。

「あらまあ、素敵ね。お国さんはどちらかしら」

「イタリアです。と言っても、祖父母がずっと日本で暮らしているので、イタリア語はほとんど喋れませんけど」

「イタリア……いいわね」

 すると女子生徒は何か思い出したようにハッとした。

「あっ……ごめんなさい。先に自分が名乗るのが礼儀よね」

 女子生徒はやんわりと微笑んで、改めて名乗った。

「赤坂(あかさか)椿(つばき)です。手芸部の部長さんをしています」

「胡桃沢マリアです」

 わたしも自己紹介すると、椿さんはやんわりと微笑んだ。

 手芸部の部長か。

 なんというか、おっとりふわふわした感じの人だなー。

 すると椿さんがわたしに話しかけてきた。

「マリアさんは手芸とかに興味があるの?」

「興味、とは少し違うんですけど……。食堂で休んでいた時に手芸部の作ったコースターを見て、可愛いなーって。わたしにも作れたらなーって」

「まあ! あのコースター、気に入ってくれたの!?」

 椿さんは無邪気な子供みたいに瞳を輝かせた。

「嬉しいわ! まさか、コースターがきっかけでうちに来てくれるなんて……!」

「はい、すごく可愛かったです! ……けどなー」

「な、何か問題でも……?」

 椿さんがおどおどしてしまって、わたしは慌てて訂正した。

「すみませんっ! 手芸部が駄目なんじゃないんです!」

「じゃあ何が……?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る