第3話 引きこもりの夏休み

 その日から夏休みになってもわたしは学校へ行かなかった。

 時間の流れって案外早くて、もう二か月くらい引きこもっている。

 両親やおばあちゃん、お姉ちゃんにも心配されたけど、わたしは頑として行こうとしなかった。

 部屋に引きこもってする事と言えば、ぼーっと横になって寝るか、YoutubeやTwitterを眺めるか。

 無趣味なわたしにとっては引きこもる事も楽じゃなかった。

 だけど勉強しようとは思わなかった。どうせ高校に行ってもこの状況が変わらないなら、行ったところで意味はない。

 とはいえ、暇だなー。

 贔屓にしているユーチューバー動画も新着まで見尽くした。新ジャンルを開拓する気も起きない。Twitterも他愛ない日常ツイートばかり……。

 ベッドに寝そべって深く溜息をつくと、扉の向こうからノック音が聞こえて来た。

「マリア、ちょっといいかしら?」

 アウローラおばあちゃんだ。

 わたしはスッと起き上がると、部屋の扉を開けに行く。

 部屋の前には綺麗な白髪のスラッとしていて上品な貴婦人がいた。

「どうしたの、おばあちゃん」

 アウローラおばあちゃんは穏やかな困り顔を浮かべながら言ってきた。

「パソコンで動画を見ようと思ったんだけどね、やり方が分からなくて……。教えてくれないかい?」

「いいけど、珍しいね。何の動画?」

 わたしが尋ねると、おばあちゃんは少し楽しそうに答えてきた。

「ベアトリーチェのお友達の学校で面白い動画を上げているらしくてね。サイトから見られるって聞いたんだけれど、どうやって調べるのか分からなくて……」

「へ、へぇー」

 わたしはおばあちゃんとリビングへ降りると、パソコンを立ち上げた。

「なんて高校?」

「確か……ルピナス学園、だったかしら」

 わたしはパソコン画面に『ルピナス学園』と打ち込んだ。すると予測変換のところに『面白動画』と出てきた。

 再びクリックしてみると、ルピナス学園のHPに繋がった。分かりやすく項目のところに『ルピナス学園公式動画チャンネル「アイワナビ―ッ!!」』という文字を見つけた。

 おばあちゃんに見せると、おばあちゃんはパアッと表情を明るくした。

「そうそう、このページだわ! ありがとうね、マリア」

「また分からなくなったら聞いて」

 わたしは部屋に戻ろうとすると、おばあちゃんがわたしを呼び止めた。

「マリアも見ましょうよ。ベアトリーチェが楽しそうに話していたわよ」

「うーん……あんまり興味ないかな」

 お姉ちゃんの友達って、多分、グループのメンバーだろう。

 わたしは高校になんていかないんだから。

 だけどおばあちゃんは寂しそうに目を伏せてしまった。

「そう。マリアももうすぐ高校生だし、少しは元気が出るかと思ったんだけれど……」

「おばあちゃん……」

 そんな事言われちゃったら……見なきゃいけない、よね。

 お姉ちゃんに言われても絶対に見ないけど、おばあちゃんだけは悲しませたくない。

 だってお姉ちゃんばかりチヤホヤされる中で、おばあちゃんだけがわたしに構ってくれたのだから。

「……分かった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る