第6話
「モリス、ついておいで」
父が手招きをするので自分もついていくとまたあの塔についた。
「モリス」
父はいつになく真剣んな顔で俺を見つめた。
いつになく緊張した空気に背筋が自然と伸びる.
「いいかい?僕にちゃんと捕まるんだよ?」
そう言うなり父は俺の体を持ち上げた。
いきなりの浮遊感にしばらくは必死に父の首に手を回し「落とさないから心配しないで」と笑われた。しかし身長180cmくらいであろう今の目線はあまりにも高く、なかなか手を離すことは出来なかった。
決して高所恐怖症などではない。
手と目に力を入れてギュッと閉じること数分。俺たちは再び本に囲まれた例の部屋の前にいた。
「モリス、目を開けてよく聞いて。
これからこの中で見ることは母さんにも誰にも言ってはいけないよ。守れる?」
父の首から手を離し、目を合わせると父は仕事の顔をしていた。練習の時のような厳しい顔でも、遠くから見守ってくれているような顔でもない。冷たい顔。
でもそれが事の重要性を表していることはすぐに理解ができた。
父の目をまっすぐ見つめて「できます」と答えると父は無言のまま部屋に入った。
俺をおろすと父はまっすぐ中央にポツンと置いてある机に向かって歩き俺を呼んだ。
「モリス、こっちに来て。」
机はどう見てもただの机だった。
茶色で横に教科書3冊たてにも三冊広げられるような広さがあった。その一番端に机の中央を照らすようにランタンらしきものが机から伸びた枝にかかっている。
「こっち」
父はニヤッとしながら椅子に座り足元を叩いた。
「?」
父の足元をよくみてみると…
いや、みても何もない。
目線で父に助けを求めると父はもう一度でも今度は少し強く足で地面をコンコンと叩く。
「!」
少し音が違う。ほんの少しだが中に響くような音がする。
「気づいたみたいだね」
父はそういうなり机の下に潜り地面をゆっくり押した。
地面はだんだん下がり横にスライドし、下に通路が現れた。
「入って」
父は俺を先に降りさせ、後から椅子の位置や地面を戻してから俺を追ってきた。
にしても暗い。真っ暗闇の中ただ階段を足で確認しながらゆっくりと進んだ。途中から追いついた父が手を繋いでくれたが、父は先を行くでもなく俺のゆっくりな歩みに合わせて進んでいった。
途中、石ころに躓きながらも一方には父一方には冷たい壁(?)を確認しながら歩いていくこと10分。父は不意に歩みを止めた。
「と…「しっ」」
父は素早く俺の口に手をかざした。咄嗟に息を潜めた。
静かになった空間に二人の男性らしき声が微かに聞こえてくる。
「……っしゃ!」
「………く……おい!…く…ぞ」
足音が遠のいていくと声もしなくなり辺りは再び静寂に包まれた。
父は壁を数回叩いて音を確認すると、
「開けるよ」
と言って俺を抱き寄せ、思いっきり壁に体当たりをした。
壁はくるっと回り、真っ暗な場所からいきなり明るい部屋に出た。
「まぶし」
目がチカチカする。
「ここがゴールだよ。」
「ゴール?」
徐々に目が慣れてきて辺りが段々と鮮明になってくる。しかし辺りにあるのは木と花のみ。
「モリス、ここがどこだか分かるかい?」
「ここ?」
木と花しかないこの場所……待てよ。上を見上げるとここが建物の中だと分かる。
上へと二階建てになっているこの建物はどうみても異次元の大きさである。これを立てられるほどのお金があり土地もあるのは
「王家の温室ですか?」
「正解」
満足げに頷かれて久々にむず痒い気持ちになる。
「随分と早い到着だな」
頭上から重みのある声音が降ってきた。
見上げても日光と被ってちょうど見えない。
「其方が……ほぉ、どことなく似ておるな」
クックックとした笑い声が聞こえた後、声を発した人物はゆっくり二階から降りてきた。同時に父は膝を突き右手を胸に当てる。
まさか…
「ご苦労だった。其方が次期ヨーステン家の当主か。」
「はっはい!」
目の前にいたのは、あの重みのある声の主は他でもない
この国の王だった
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