第5話

塔の階段は幅が狭く、段数が多い。それに加えて今は地下に向かっているのでだんだん日の光が弱くなっていく。


「どこまで続くんだ?」


壁を頼りに下へ進んで行くと一つの扉の前で足は止まった。


「此処が終着地か、」


身長と同じくらいの大きさのドアに立ち尽くした。全体的に茶色く、ドアノブがついたドアは一見普通のドアに見えるが…


「これ、なんか変だな」


よくよくドアノブ付近を見るとドアノブを囲うようにして薄い四角い線が入っている。


「んー、こうか?」


とりあえずドアノブをドアに向かって押し込むとカチャッと音がして扉が自然と開いた。


「おぉぉ!すごい!

で?中はどうなってるのか…」


壁全面に本がぎっしり詰まっており、中心には机と椅子がポツンと置いてある。机の上の明かりがまだ消えていない事から、俺は周りを注意深く見渡した。


まだ人がいるのかもしれない。


足音を立てないように慎重に歩いていると突然誰かに肩を掴まれた。


「?!!!!!?」


俺は声にならない声を上げて飛び上がった。

ゆっくりゆっくり後ろを振り返る。


そして顔を確認できた時、俺は体から一気に血の気が引いた。

 俺の背後には王都で仕事をしていたはずの父が満面の笑顔で立っていた。


因みに此処で補足をしておくと、父の満面の笑みほど怖いものはない。


何故なら彼は、笑って怒るタイプだからだ。


一旦、俺は父の仕事部屋に連れてこらえた。

ずっと笑顔の父は顔こそ笑っているものの、周りの雰囲気は凍っていた。


「それで?モリスはどうしてあそこにいたのかな?」


父はこれはこれは嬉しそうにしか見えない満面の笑みを浮かべて、俺に詰め寄る。


「ええッと……ちょっとした好奇心…とか」


ちらりと父を伺うと彼は一瞬笑顔を凍らせた。


「モリス、昔僕が言ったこと覚えてる?」


今度は真剣な眼差しに、一気に空気が変わる。


「言ったこと?」


「うん、モリスがもしこの家を継ぎたくないんだったらモリスはこの家を出て行かなければいけないと言う話。」


父は悲しそうに微笑みながら俺の手を握った。いや覚えてねー、とは言ってもそんな事を言える雰囲気ではないので俺もただ微笑みながら曖昧な返事をする。


「モリス、今はどう思ってる?この家を継ぎたいと思っているかい?」


「…はい」


継ぎたいかどうか以前に俺はこの人達がいないと生きていけない気がする。物理的に。


「そうか!!」


俺の返事を聞くと同時に父は目を輝かせスクッと立ち上がった。


「よかったよ。それならあの塔の説明もできるからね!モリスが継ぎたくないと言ったらモリスを今後どう隠していくかが問題だったけど…うん、よかったよ!」


今度は優しい眼差しで俺を見つめる父に絆されかけたが…


待て待て。

なんだ、隠すって!!!?

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