第4話
あれから2年たった。
毎日毎日謎の訓練をやらされて、筋肉痛に悩んでいたのはたったの2日。一週間で体は意外と慣れてしまうもので、もうどこも痛くない。
因みに舌も回るようになった。
今日は父(あの男の人は父だと思う)と母が何やら王都で仕事らしいので、俺は一人でお留守番である。とは言ってもキッチンにいる2人のシェフと庭の整備をしてくれているおじさんとこの屋敷の家事全般を担当してくれているメイド(の格好をした家政婦さんみたいな人)が二人いる。
故に完全に独りなわけではないのだが、
「やっぱりまずはこの家のことをもっと知りたいよね!」
俺はこの家を隈なく探検する事にした。
この家…いや屋敷と呼ぶべきなのだろうか。
あたり一帯は森に囲まれており、庭は池が作れるくらいには広い。バスケットコート6つ分くらいは余裕である。
その大きい庭の中心部分にこの建物は立っている。正面から見ると長方形の右側に中世のヨーロッパに代表されるような円錐形の建物がくっついている。
俺が立ち入ったことのないような部屋が沢山ある。そしてこの行動をしようと思った最大の要因は昨日見てしまったからだ。
父が廊下のある一角の壁に入っていくところを!
そんな忍者の屋敷見たいな仕掛けが我が家にあるとは思っても見なかった。
「昨日の父さんが行ったところも気になるけど、やっぱりまずは、あの塔からだよねー!」
我が家には実に未知の場所が沢山あるのである。
塔へ向かう道を勇ましく歩いていると、端の方に掃除をしているメイドさんのうちの一人、レナさんを見つけた。
「レナさん!」
「はいはい坊ちゃん、どうなさいましたか?」
レナさんは此処で働きはじめてからもう10年くらいになると言う大ベテランメイドである。普段は雰囲気の良いおばさんなのだが、怒るとこの家の主権は彼女に移る。
「レナさん、お…僕、塔に行きたいのだけど、塔に入るための鍵とかって持ってる?」
「いいえ、しかし坊ちゃんならそのままで入れると思いますよ。」
「?そっか、ありがとう!」
レナさんはペコリと頭を下げると元の掃き掃除へと戻っていった。
自分を「僕」と呼ぶ事にはまだ慣れない。俺と言っていたら、笑顔のまま父に頭を叩かれて、「ぼ・く」と強調された。恥ずかしくて、ふと気が緩んだときに「俺」とか言おうものならすぐに鉄拳が飛んできて「僕」って直される。
それにメイドさんにも敬語を使って話していたら、これはこれで母親に「モリスちゃん、あなたはだーれ?」と聞かれ「モリス・ヨーステンです…?」と答えた。
すると
「そうよね、ではあなたはヨーステン家の人間ですよね?」
と聞かれうなずくと
「どこにメイドにヘコヘコ頭を下げる貴族がいるのかしら。あっ、見たことあるのなら連れてきて頂戴ね」
と迫力のある笑みで叱られた。
貴族というものは難しい。
「はぁあぁ……ん?」
気づくと目の前には、目標物が立っていた。
「あれ?」
意外と近かったな。
でもまぁ、遠いよりはマシなのでとりあえず入ってみる事にする。
「おやま(邪魔と言ってるつもり)しまーす」
塔の中にはすんなり入れた。と言うのもドアに鍵が掛かっていないどころかそもそもドアが無かった。目の前にはしたと上に続く螺旋状の階段。
まずは下からだよね!
モリスはグッと拳を握ると戸惑う事なく塔の中へ入っていく。
そして真っ暗な塔の地下へと小さな体は吸い込まれていった。
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