第3話
次の日から、女の人が言っていたことの意味を理解した。
「ほらモリス、これくらいならできるだろう?」
男はこちらを見てニコリと笑う。しかし立っている場所は柵の上。家の領内にあった池の周りを囲む柵の上に今彼は立っている。
あんな所そもそも人が歩くために作られていないと思う。なのに男の人が楽しそうにスキップとかしだす。
いやいやいやいや
無理無理無理無理
手を前に出し思いっきり振るが、男の人にニッコリと微笑まれて終わった。
俺、多分この体のまだ上手く馴染めてないんだよなぁ…
なんてそんな言い訳を聞いてくれそうな人は周りに誰もいない。女の人は優雅に紅茶を飲みながら、厳しい目つきでこちらを見ているし、男の人は目が笑っていないような笑みを浮かべている。つまり二人とも目が本気なのである。
やるっきゃないかぁ
無理だと思っても意外といけるかもしれない。そんな淡い期待を持ってフェンスによじ登ると案の定すぐにバランスを崩した。
【ドボン】
「モリス!」
すぐに男の人が手を貸してくれてなんとか上に上がってこれたものの、
今 足がまったくつかなかったんですけど…?!
その事実にブルッと身震いをする。そして出来る限り目をうるませ、上目遣いを使って訴える。
辞めませんか?
ところが,男の人は晴天にバッチリ映えるような爽やかな笑顔を浮かべて言い放った。
「ん?どうしたモリス、大丈夫!一回や百回の失敗なんて気にするな!今日中にできるようになればいい話さ!」
…パーデゥン?
「モリス、大丈夫。失敗してもテディが助けてくれるわ!ね、あなた」
「もちろん。ほらモリスもう一回!」
…リアリー?
耳を疑う。何者なんだこの人は!
僕の(多分)父だ!
覚悟を決めて、何回も何回も挑戦した。
何回か地面にも落ちそうになったが、そこは彼が支えてくれたおかげで頭を打つことはなかった。
空がだんだん紺色に近づいた頃、
「できた!」
俺はようやく柵の上に1分以上立って歩くこともできるようになっていた。
やっぱり俺ってやればできる子じゃん!
パッと男の人を振り返ると、愛しそうに微笑まれた。
…なんか調子狂うじゃん、さっきまであんなに厳しかったのにさ、
顔に熱が集中するのを感じ取って顔を前へ再び向ける。
【グーギュルギュルギュル】
「あはは、そうだね、今日はまだ何も食べていないからね。さ、戻ろうモリス」
男の人は愉快そうに笑いながら俺の手を引っ張って俺を背中に乗っけた。
恥ずかしすぎて顔が上げられず、俺はなされるがままになっていた。
それと後もう一つ。
お腹の中にいる虫と必死に戦っていたのである。
そう言えば朝の朝会とかでもなって恥ずかしい思いをした気がする。お前だけは絶対克服してやる!
なんてそんなくだらないことを考えているとは露知らず、男の人は急に唸り出した我が子を心配するのであった。
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