宝生探偵事務所/35歳女子は「オバチャン」?

亀野 あゆみ

宝生探偵事務所/35歳女子は「オバチャン」か?

 ある日の宝生探偵事務所。世津奈とコータローが話している。


「先輩、カエデの誕生パーティに来てくれて、ありがとうございました。先輩のプレゼント、カエデ、すっごく喜んでました」

「良かった。5歳の女の子にプレゼント買うなんて初めてだから、喜んでもらえるか心配でドキドキしちゃった」


「『オバチャンは、センスがいいね』って、カエデが言ってました」

「センスがいい? 5歳児が大人な事を言うのね」

「あぁ、玲子の受け売りです。母親の言うことを、なんでもマネしたがるんす」

「そうなんだ」

カエデの先が思いやられる気がする。


「ところで、前から気になってたんだけど、どうして、カエデちゃんは、私のことを『オバチャン』って呼ぶのかな?」

「えぇ? 先輩がそんな事を気にするとは、思ってもみませんでした」

「気にしてるって程じゃないけど、若干、違和感があるかな」


「じゃ、『オネエチャン』って呼ばれたいすか? てか、「オネエチャン」と呼んでもらえる気がします?」

「う~ん、ビミョー」

「それ、『ビミョー』じゃないすから。『ありえねぇ~』の方です。そりゃ、先輩は、歳より若く見えなくもないっすよ。だけど、キャピキャピした所が全然なくて落ち着き払ってるから、『オネエチャン』は無理です」

「そうなの?」


「先輩、『オバチャン』って呼ばれるのが気になるなら、お母さんになればいいんすよ」

「母親に? すると、何が変わるの?」

「『オバチャン』じゃなくて、『ママ』って呼んでもらえます。カエデは、お友達のお母さんのことは、『茜ちゃんママ』とか『紗枝ちゃママ』とか、みんな『ママ』づけです。20代のお母さんでも、40代お母さんでも、みんな『〇〇ちゃんママ』です」


「だけど、『オバチャン』が『〇〇ちゃんママ』に変わっても、歳で呼ばれる代わりに役割で呼ばれるだけじゃない」

「それのどこがいけないんすか? 」

「私という人間を呼んでもらっている気がしない」

「そんな屁理屈をこねるなんて、先輩らしくないすね」

「屁理屈かなぁ……なんか、本質的な問題のような気がするけど」


「確かに、アメリカ映画を観てると、子どもが友達のお母さんや近所の人をファースト・ネームで呼んでたりしますよ。でも、日本にはそういう習慣はないっすから。この国で、5歳児が先輩のことを『世津奈』って呼んだら失礼です」


「『セッチン』って呼んでもらえたら、嬉しいわよ」

「雪隠と同じ音でも?」

「親と本当に親しい友だちからは『セッチン』と呼ばれてた。私の愛称だもん」

「子どもに愛称で呼んでもらう? 絶対にナシとも言えないけど……やっぱ、違和感ありますね」

「なんで?」

「日本は『長幼の序』を重んじる国です。子どもが大人を愛称で呼ぶのは失礼です」

「そうなの?」

「そうっす」


 どうも、納得しきれない世津奈だった。


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