42)ステレオタイプな恋愛は書きやすいけれど心が痛む

 さて、短編児童小説なるものが募集されていますね。部門が二つあって「児童向け恋愛小説(溺愛)」「児童向けファンタジー小説(異世界転移)」です。


 はい、ここですなさとの生態を知っている方なら、私が今から何を語ろうとしているかピンとくるかもしれません。

 とにもかくにも、「は?」と思ったのが「児童向け恋愛小説()」です。いやね、恋に毛が生えたようなもんしか知らないであろう子供に、溺愛って……。


 「溺愛」は基本的に胡散臭いというのがすなさとの見解です。(あー、いきなり殺伐とした話になってきたな……)

 ぶっちゃけ、怖い。危ない。とても排他的で利己的な偏愛の一種だと思っています。俺様系イケメンなんかに溺愛された日には、その子に明日はありません。愛という名のもとに、その存在すべてを搾取されかねない。そこに本当の幸せが存在するかどうかは、厳しく検証する必要があると思います。(これ、なんの話だ?)


 ま、すなさとの偏った溺愛論(一応自覚あり)は、語り出すと面倒なのでやめておきます。では、ここでは何を語りたいかと言うと、「溺愛」は「幸せである」というステレオタイプな構図を募集していることについてです。(はっきり運営側がそう言っている訳ではないですが、おそらく溺愛されて幸せになる物語を募集しているんですよね、これ)


 恋愛ジャンルに限らず、こうしたステレオタイプの話というのは書きやすいと思っています。なぜなら、多くの人が無意識のうちに持っている「こういうものだ」「こうあるべきだ」などという常識を利用して書くのですから、不協和音を起こしにくいし予定調和もしやすい。


 私は、予想外の展開も、どんでん返しも、すべてこの不協和音と予定調和の組み合わせで出来上がっていると考えています。

 ただ重要なのがバランスで、予想外でどんでん返しだったらなんでも良いわけではなく、予定調和の部分をしっかり押さえた上での不協和音だからこそ、読者さんにも物語として受け入れてもらえる。そうでない場合は、そうでなかった細かな説明が必要なわけで、それがないと読者さんはきっと納得しないと思います。


 かくいう私の作品の中にも、このステレオタイプのような展開や登場人物、シチュエーションが多く存在しています。例えば、女の子の可愛いしぐさに男の子がきゅんとする、男の子の頼もしい姿に女の子がきゅんとする、などなど。挙げるとキリがありません。

 ただこれ、裏を返すと


 可愛い女の子じゃないと男の子はきゅんとしない

 頼りがいのある男の子じゃないと女の子はきゅんとしない


 という隠れたメッセージになりかねないんですよね。


 職場などで最近よく聞くようになった「女子力高め」っていう言葉もしかり。

 気配りができるとかお洒落であるとか、そんな時に使われることが多い褒め言葉かなと思いますが、裏を返せば気配りができなくてお洒落でもない女子は女子力が低く、そもそも女子じゃないのかという話になります。というか、「女子」だから気配りができるのではなく、その人だから気配りができるのだということに私たちは気づかなければならない。


 さて、話を元に戻します。こうした「○○はこうだ」とか「○○はこうあるべきだ」といった無意識の思い込みは、前述のように悪気のない褒め言葉でも形成されていきます。繰り返すことで再形成され、さらに強固な常識となっていきます。これが怖い。

 そして、私たちの書く作品が、この偏った価値の再形成に荷担してもいいのだろうかと思うことがあるわけですよ。


 ステレオタイプな物語は、確かに書きやすいし、多くの人に受け入れやすいと思います。自分の中で形成された価値観と一致するものを提供されると、私だって安心します。心をぐらぐらされないから。

 でも、なんというか、書いていてモヤモヤするんです。あ~、これってステレオタイプだなあって。


 本当なら、いろいろなことに縛られず自由に書ける素人だからこそ、新しい価値観を叩きつけられるような作品を創り出せるチャンスなのかもしれません。

 しかし悲しいかな。いかんせん力量不足で、既存の価値にとらわれない常識を覆すような話も書けず、挙げ句、箸にも棒にも掛からないものを書いているのが現実な今日この頃でございます。(なんかよく分からないオチになったな)

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