13)「ざまあ」でざあます~見返しのお作法~
このカクヨムで活動を始めていろいろな言葉を覚えましたが、「ざまあ」という言葉もその一つです。「ざまあみろ」の省略ですよね。
先日、この「ざまあ」要素が入っている物語を読みました。とにかく、主人公が適当に理不尽な扱いを受けた後、その相手が不幸になる、もしくは自分が優位に立つ、というわけなんですが、なんとその時に主人公が
「ざまあ!」
とほざいたのです。(当然、心の中ですが)
ざまあ小説としては、これが真骨頂となるのでしょうか。全てのざまあ小説を読んだわけではないので、まあ分かりませんが、とにもかくにも私はそこでブラウザバックしてしまいました。勝ち誇ったように嬉々として「ざまあ!」とほざく主人公と、この先の長い物語をともに出来るとは到底思えなかったからです。
相手の不幸に際し、「ざまあ」とほざく主人公の心情はいかばかりか。ちょっと私には理解できませんでした。
ちなみに、前述の物語で主人公が受けた理不尽な仕打ちとは、この手の物語によくある「婚約解消・破棄」ってやつです。単にこれをされただけで理不尽な仕打ちとなっています。主人公の生い立ち、家族構成、相手の事情、その世界の常識や社会情勢など、なぜ相手が「婚約解消」に至ったかのストーリーがほとんどない。当然、ごめんなさい、理不尽さがいまいち伝わってこない。
その悲壮感のない状態で、相手に「ざまあ」とほざく主人公は、私にとっては悪役にさえ映ります。
さて、話を本題に戻します。このざまあ小説の根底にあるのは「見返し」という構図です。悔しい思いをした相手に、逆に悔しい思いをさせる。そういう話です。
こうした設定は、別に今に始まったわけではありません。『シンデレラ』もあれは一種の「ざまあ」ですよね。
ただ、シンデレラと違うのは、ざまあ小説は見返し方がスマートじゃない。
見返し文学(←便宜上、今名付けました)の醍醐味は、マイナスから始まる主人公が、そこからいかに這い上がっていくかです。これこそが物語における作者の腕の見せ所でもあるのではないでしょうか。
持ち前の前向きさ、誠実さで頑張るとか、一生懸命ファーストレディーになるべく努力するとか、何かストーリーがあって欲しい。
なのに、相手の不幸を目の当たりにして「ざまあ」とほざく。まあ、嫌な奴だったのかもしれませんが、これでは相手とレベルが同じです。「ざまあ」とほざいた時点で、主人公さん、あなたも同じ穴のムジナです。あなたが目指していた見返しとは、その程度のものなのか。「ざまあ」なんて、相手にほざいている場合じゃない。
私の作品でも登場人物が「ざまあみろ」と心の中で呟いたことがあります。でも、そのシーンは、「ざまあみろ」を口にした登場人物がスカッとしているシーンでは決してありません。むしろ逆、そこで自分が苛立っていることに気づき、人の不幸に対してほくそ笑む自分に自己嫌悪さえ感じるシーンです。
私にとって「ざまあみろ」という言葉は、それくらい悪意がこもっている言葉です。こんなに簡単に、きゃっきゃと口に出していいものかと思ってしまいます。
シンデレラは「ざまあ」とは決してほざかない。決してほざくことなく、マウントを取る。いや、そもそもマウントを取ったと本人は思ってもいないかもしれません。でも、だからこそ読んでいても気持ちがいいし、スカッとします。これこそが、文学における見返しのお作法なのではないかと思うわけです。
ただし、「少なくとも私は、」という限定付きですが。
なぜなら、流行っていますよね、この「ざまあ」。この人の不幸を公然と笑う「ざまあ」の風潮は、昨今の世相を反映しているようにも見えます。なんとも、世知辛い気持ちになった今日この頃でした。
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