十三話 寮

 寮の方へ向かうと三人の人物が俺たちを待っていた。


「久しぶりね!ジル」

「お久しぶりでございます、ジルベルト殿下」

「お待ちしておりました、殿下」


 待っていた三人が俺たちに気が付くと声をかけてくる。


「久しぶり。エミリー姉様、サラさん」

「お久しぶりです」


 俺たちも久しぶりに会う二人に挨拶をする。

 サラさんというのはエミリー姉様の専属メイドの名前だ。容姿は黒髪のショートボブをしていて大和撫子のような人だ。


「テンリも久しぶりね」

「お久しぶりです、テンリさん」


 二人がテンリに挨拶を返す。


「でも、何で二人がここに?」


 俺が二人に質問する。

 ソフィアは部屋の用意とかをしていたからわかるけど、二人がいる理由がいまいちわからない。


「そんなの可愛い弟に会いたかったからよ!」

「私はエミリー姫殿下の付き添いでございます」

「な、なるほど」


 エミリー姉様の迫力に少したじろいでしまう。


「殿下。とりあえず、寮室で話してはどうでしょう」

「そうだな」

「じゃあ、私が寮内を案内してあげるわね」


 俺たちはエミリー姉様の案内で寮の中へ入っていった。


 寮の中に入るとホールが広がっていた。目の前には二階に上がるための階段がある。


「殿下の部屋番号は105号室でございます。お風呂と食堂が共同になっていますのでエミリー姫殿下と共に確認されてはどうでしょう」

「わかった。そうするよ」

「私は部屋で食事の用意をしておきます」

「私もソフィアと共に部屋に行っていますね」


 そう会話してソフィアとテンリと別れた後、エミリー姉様とサラさんと一緒に共有スペースを回ることにする。


Side テンリ


 私はソフィアさんと共にジルの部屋にやってきた。


「テンリ様は殿下のことをどう思っているのですか?」


 ソフィアさんが部屋に入ると質問してくる。


「いきなりどうしたんですか?」


 私はソフィアさんの質問の意図がわからなかったので聞き返す。


「いえ、気になっただけです。召喚獣というのは主に対してどのような感情を抱くのかが」

「そうだったのですね」


 私はその答えを聞き質問の意図を理解する。


「私は、ジルが対等な関係を望んでいるというのもあるのでそのように接したいと思っています。けれども、どうしても弟のように感じてしまいますね」

「そうなのですか」


 私はソフィアさんの質問に素直に答える。


「逆にソフィアさんはジルのことをどう思っているのですか?」

「私、ですか?」


 私はソフィアさんに聞いてみる。


「私は殿下のことを絶対的な主であり、王の器を持つ人だと思っています」

「何故、そこまでの忠誠を誓っているのですか?」


 ソフィアさんがどうしてジルに対してそこまでの忠誠を誓うのか疑問に思い質問する。


「私は人の魂を見ることができるのですが、生まれたときに、その、一目惚れしてしまいまして」

「そ、そうだったんですね」

「それに、殿下の専属メイドとして六年間付き添ってきて思ったことがとても人となりのよい人だったからですね」

「教えてくださってありがとうございます」


 私の質問に対して誠実に答えてくれたことのお礼をする。


「いえ、構いませんよ。それよりもそろそろ食事の用意をしましょう」

「そうですね」


 寮室は自炊が出来るようにキッチンが完備されており、そこでソフィアさんから料理を教わりながらジルが戻ってくるのを待った。


◇◆◇


「ただいま~」

「お邪魔しま~す」

「お邪魔いたします」


 エミリー姉様に案内されて共有スペースを確認した後、寮室に戻ってきた。


「お帰りなさいませ」

「お帰り~」


 部屋に入るととてもいい匂いが漂ってきた。机の上を見るとグラタンが置いてあった。


「夕食はグラタンか」

「本当は殿下にはもっといいものを食べていただきたいのですが、こんなものしか用意できず申し訳ございません」

「別に気にしてないよ。せっかくソフィアとテンリが作ってくれたんだし、俺も一般的な料理を経験しないといけないと思うからね」


 謝ってくるソフィアに対して俺は気にしていないという意思を伝える。


「ありがとうございます、やはり殿下はお優しいですね」

「う~ん、別に普通じゃないかな」

「貴族のご子息の中にはこういう食事を嫌う者が多々いますので、殿下は珍しい方ですよ」

「へ~、そうなんだ」


 ソフィアの説明を聞いて俺は少し驚く。


「それよりも早く食べましょ。ジル、あなたが主役なんだからあなたが食事の挨拶をしなさい!」

「わかったよ、エミリー姉様。神に感謝を」

「「「感謝を」」」


 食事の挨拶をして食事を始める。


「うまっ!」

「お気に召したようで何よりです」


 まろやかでクリーミーな風味に玉ねぎのちょっとした食感と鶏肉がいい感じに味を出していてとても美味しい。


「頑張って作った甲斐がありました」

「ええ、ホントにおいしいわ!」

「私までいただいてよろしいのでしょうか?」

「別にいいですよ、サラさんだって身内ですから」


 そんな感じで楽しい食事をしていった。


 しばらく経ち食事が終わってお開きになった。


「それじゃあ、そろそろ私たちは部屋に戻るわね。お休み」

「皆様、お休みなさいませ」


 そう言ってエミリー姉様とサラさんは部屋から出ていった。


「私たちもそろそろ寝ましょうか」

「そうだな」

「私は使用人用の部屋が用意されているのでそこで寝ます。朝にはちゃんと起こしに来ますのでご安心ください」

「分かってるよ。お休み、ソフィア」

「お休みなさい、ソフィアさん」

「はい、お休みなさいませ」


 ソフィアも部屋から出ていった。ちなみに、テンリとは同室になっている。


「それでは、ジルもお休みなさい」

「お休み、テンリ」


 仕切りの向こうからテンリの声が聞こえてきたので挨拶を返し眠りに入る。

 そうして、今日が終わっていった。

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