第二章 学園編 上
十二話 学園の試験
入学試験当日の朝はとても清々しい快晴だった。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってまいります」
「向こうでのお世話もお任せください」
馬車の前で俺とテンリ、ソフィアがイザベラ母様とシャルに挨拶をする。他の家族たちは書類仕事や視察の見学などでいない。
「向こうにはエミリーもいるからわからないことがあれば聞きに行くのよ」
「にぃさま……」
「大丈夫、たまに帰ってくるから。約束だ」
「わかった……」
俺が行ってしまうことがさみしいのか涙目になっているシャルを慰める。
「殿下、時間が迫ってます」
「ああ、わかった。そろそろ本当に言って来るよ」
ソフィアが注意してきたので馬車に乗り込む。すると、馬車が進み始める。
「元気でやるのよ~」
「にぃさま~やくそくまもってね~」
「わかってるよ~」
馬車から顔を出してイザベラ母様とシャルが見えなくなるまで手を振る。
しばらくすると、馬車が止まる。
「殿下、どうぞ」
ソフィアが馬車の扉を開けて外に出るよう促してくる。
「ここが学園か」
外に出て学園の門をくぐると左側に受付があったので、受験票を渡す。
「それでは、私は寮の方に行ってますので殿下は試験を頑張ってください。テンリさんは殿下のことを頼みます」
「はい!任せてください」
テンリがソフィアの頼みに胸を張りながら答える。
「そんなに心配しなくてもいいんだけど……」
「そんなわけにはいきません!殿下は王子なのですから、自覚をお持ちください」
「自覚は持ってるつもりだけど……」
俺はソフィアの心配性に少し肩を落としながら受験会場に向かって行った。
試験は午前に筆記、午後に実技の試験がある。なので、今は筆記の試験会場に向かっている。
試験会場である教室に向かうために廊下の角を曲がる。
「うわっ」
「きゃっ」
廊下を曲がると誰かとぶつかってしまう。
ぶつかった相手を確認すると尻もちをついた水色のショートカットをした少女がいた。おそらく、違う会場の受験者だろう。
「大丈夫ですか?」
少女に向かって手を伸ばしながら大丈夫か聞く。すると、ぶつかったときに落としたであろう帽子を拾って走ってどこかへ行ってしまった。
「大丈夫ですか、ジル。それにしても、彼女はどうしたのでしょうか」
「さぁ?それよりも俺たちは受験会場に行こう」
テンリと共に受験会場へと続く廊下をまた歩き出す。
受験会場へと着き、教室へと入る。
教室の中にはいくつかの長机があり、その上に番号の書かれた紙が置いてあった。
「ここの席だな」
「頑張りましょうね」
受験票に書かれた番号と同じ番号の席に座る。ちなみにテンリの席は俺の隣だった。
「それでは、これより試験を始める。カンニングなどの不正はその場で不合格なのでしないように。はじめ!」
しばらく教室の中で待っていると教師らしき人が入ってきて試験が開始される。
試験問題のレベルはそれほど高いものではない。転生前は高校生だったので余裕で解ける問題だ。
それにしても、今まで気にしなかったけど黒板や食材の名前も地球と同じようなものがたくさんあるがたまたまなのか?
教室に入ったときに確認した黒板を見て頭に引っ掛かりを覚えながら筆記試験は終わっていく。
「終了!それでは受験者たちは解答用紙をその場に置き実技の受験会場に向かってください」
試験官であろう教師がそう告げると受験していた人たちが解答用紙をその場に置き、実技の試験会場に向かって行く。
俺たちもその人たちに続いて自分の試験会場に向かって行った。
次の試験は魔法実技だったので受験会場である第二演習場に向かう。
第二演習場の中にはたくさんの受験者が列を作り、順番に試験を受けている。
「あれ?そういえば、テンリって魔法は何が使えるの?」
「風と水、雷が使えますよ」
「へぇー。俺より高い点が取れそうだな」
「手加減はさすがにしますけどね」
そんな感じで会話しながら自分たちの順番を待つ。
「受験番号200番!」
「はい!」
試験官に呼ばれたので前に出る。
試験内容は50m先にある的に向かって魔法を使うことだ。
「【
通常のMP量で魔法を使う。ちなみに【
俺が魔法を唱えるとMPが60減り12本の火の矢が現れる。
「さすがは王族だな」
試験官が感心したような声を上げるのをよそに俺は十二本の火の矢を飛ばし、すべて命中させてその場を後にする。
「次!受験番号201番!」
テンリの受験番号が呼ばれたので、様子を見守る。
「はい。【
テンリが魔法を唱えると、手の先から水と風と雷の球が出現する。
「おお、三属性を同時に使うとは」
テンリが魔法を放つ。
三つの球は螺旋を描きながら的に命中して弾ける。
「こんなものですね」
テンリが呟きながら俺のもとに来る。
「お疲れさま。さすがだな、コントロールも完璧だった」
「まぁ、伊達に神獣をしていませんからね」
テンリは少し胸を張り、余裕の表情で答える。
「普通、違う属性の魔法をほぼ同じように動かすのは、勝手が違うから難しいんだけどな……」
俺はテンリの魔法のコントロールを思い出しながら呟く。
「ジルも少し練習すればできますよ」
テンリと少し魔法談義をしながら武術の試験会場に向かう。
少し歩いて、試験会場である隣の第一演習場へと来た。
第一演習場の中は、地球の闘技場のような場所だった。上段に観戦席があり受験者はそこで自分の番まで待機している。
「さすがに、俺たちのような奴はあまりいないな」
「私たちは、王国騎士団長から指導を受けていますからね。私たちのような人がたくさんいたらそれはそれで問題ですよ」
「それもそうだな」
俺たちは他の受験者の試合を見ながら感想を言い合う。
やはり、技術のレベルが違うな。他の受験者はまだ俺たちよりもレベルが低く見えてしまう。
「そろそろ、行くか」
「そうですね」
俺たちの少し前の番号の受験者が出始めたので試合場の入り口に向かう。
入り口に着くとそこには順番待ちのような列ができていたのでそこに並び、自分の順番を待つ。
「受験番号200番!」
試験官の呼ぶ声が聞こえたので、準備されていた木製の剣を持ちながら試合場に入っていく。
「それでは、試験を始めるのでどこからでもかかってきなさい」
「わかりました!」
試験官の言葉に返事を返し、試験が始まる。
俺は最初から〈縮地〉のスキルを使い、一気に距離を詰めて剣を上から振り下ろす。
「うっ」
試験官がうめき声を上げながら俺の初撃を防ぐ。
そこに俺が腹に蹴りを入れてよろめかせる。
「ぐっ」
その隙に右下から左上に切り上げて試験官の剣を弾き飛ばす。
「なっ」
「これで終わりです」
武器が亡くなった試験官の首に剣を突き立て言う。
「そこまで。次!受験番号201番!」
俺の試験が終わったので入り口に戻っていく。
「頑張れよ、テンリ」
「はい!」
すれ違ったときにテンリを応援するとテンリが嬉しそうな声で言葉を返し、試験官の方へ向かって行った。
観戦席に戻って観戦でもするか。
寮に戻ってもよかったがテンリを待つために観戦することにする。
「行きます!」
テンリは正眼に構えた大剣を振り上げて試験官との距離を詰める。
「はぁぁぁ!」
「うぅ」
テンリの一撃を受け止めた試験官のうめき声が聞こえるが、テンリは気にした様子もなくそのまま連撃を繰り出す。
テンリの戦い方は、力でねじ伏せるような戦い方で剛剣の極みのような戦い方をする。
「ぐぅぅ」
試験官はそのことごとくを防いでいくが段々と試験官の持っている木製の剣にひびが入り始める。
「これでお終いです。はぁぁぁ!」
テンリが声を出しながら剣を振り下ろす。
すると、試験官の木製の剣が真ん中からへし折れる。
「す、すごい」
「もう、行っていいですか?」
「あ、ああ」
テンリは試験官と少し話した後、試験官と別れ試合場の入口へと向かう。
「俺も行くか」
俺も観戦席から離れてテンリを迎えに行く。
「さすがだな。まさか、同じところを切り続けるなんて」
「これも、練習の賜物です。ジルもできるのではありませんか?」
「実戦で使うのはまだまだできないよ」
「そうだったのですか」
テンリを迎えに行った後、剣術の話をしたりしながら寮へと歩いて行った。
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