十話 魔法の卒業試験

「う~ん」


 俺はベッドの上から起き上がりながら背伸びをする。


「もう朝か」


 ふと窓から外を見ると空が明るくなっていた。どうやら、あのまま次の日まで寝てしまったらしい。


コンコン


 部屋の扉がノックされる。


「失礼します。殿下、お目覚めになられたのですね。おはようございます」

「おはよう、ソフィア」


 ソフィアが入ってくると同時に入ってきた使用人に服を着替えさせられながらソフィアに挨拶を返す。


「今日の予定は、魔法の卒業試験だよな」

「はい、その通りでございます」


 実は来年から学園に入る予定なのだが、入学には試験が有り王族としては主席に入らなければならないので今年の内にある程度の知識を付けておくために今のうちに卒業試験を行って合格する必要があるのだ。


「まずは、朝食を食べに行くか」


 俺はソフィアを連れて部屋から出ていく。テンリを呼んで三人で食卓に向かっていたが途中でシャルと出会い四人で食卓へ向かって行った。


 いつも通りソフィアに促されて部屋に入る。

 部屋の中には俺の席の隣に新しい席が増えていた。恐らくテンリの席だろう。


「おう、来たな」

「よく眠れたかい?」


 先に来ていたイグナシオ兄様とロベルト兄様が話しかけてくる。


「はい、よく眠れました」


 席に座りながら答える。


「おはようございます。イグナシオさん、ロベルトさん」


 テンリも俺の隣に座りながら二人に挨拶する。


「おう!」

「おはようございます。テンリさん」


 二人がテンリに挨拶を返す。その後は続々と家族たちがやってきて父様の挨拶で食事が始まっていった。


 食事が終わり一旦、部屋に戻ってきた。


「ソフィア、授業が始まる前に風呂に入っておきたいんだけど、準備してくれる?」

「そういわれると思って準備はできております」


 もう準備はしてあったようだ。


「そうか。じゃあシャルの相手をしてやってくれ。テンリも頼むぞ」

「かしこまりました」

「はい、そうしますね」

「え~、にぃさまあそんでくれないの~」

「試験が終わったら遊んであげるから今は我慢してくれ」

「わかった……」


 シャルを説得して一人で浴場に向かおうとする。廊下に出て一人で向かっているとそれに気が付いた使用人が一人ついてくるようになった。


「別に一人で大丈夫なんだけど」

「そういうわけにはいきません。殿下は王子なのですから」


 使用人についてこなくても大丈夫だと伝えてもそう返されたので諦めることにする。

 その後、ゆっくりと風呂に入り自室に戻った。


「あれ?シャルはどうしたの?」


 部屋に戻るとシャルがいなくなっていた。


「遊び疲れて寝てしまったので部屋のベッドに寝かせておきました。それと、アリア様がお着きになったようです」

「そうか。じゃあ、今からアリアさんのところに行こう」

「あの~、ジル。私も行っていいでしょうか?」


 俺とソフィアがアリアさんの下に行こうとするとテンリが一緒に行っていいか聞いてくる。


「別にいいよ」

「ありがとうございます!」


 許可を出すとテンリが予想以上に喜んでいた。そのまま三人で客室へ向かう。


コンコン


「どうぞ~」


 ソフィアのノックにアリアさんが入室の許可を出したのでソフィアが扉を開き入室していく。


「こんにちは、アリアさん」

「こんにちは、ジルベルト様。そちらの方は?」


 テンリのことを初めて見たアリアさんが質問してくる。


「私はジルベルト様専属騎士に任命されたテンリと申します。以後お見知りおきを」


 テンリがアリアさんに自己紹介する。ちなみに専属騎士というのは今日の朝食の時に召喚獣であることを隠すための隠れ蓑として父様から用意された地位だ。


「そうなんですね。私はジルベルト様の魔術講師をさせていただいているアリア・アイルフタと申します。よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」


 テンリとアリアさんが挨拶をし終える。


「アリアさん、さっそく試験に移ってもらってもいいですか?」

「あ、はい。それでは中庭に移動しましょう」


 俺がアリアさんに試験に移るように促して四人で中庭へ移動していく。


 しばらく歩き中庭に着いた。


「それじゃあ、二人はそこで見ててね」

「かしこまりました」

「分かりました」


 ソフィアとテンリに指示を出して壁際で待機してもらう。


「始めましょう。アリアさん」

「わかりました。それでは、試験内容を発表しますね。試験内容は私が出した魔法をすべて一発で相殺することです。的は動き回りますのでよく狙ってくださいね」

「はい!」

「始めますね。【水球ウォーターボール】、【火球ファイアボール】、【土球グラウンドボール】」


 アリアさんが魔法を唱えると50mくらい先に水の球、火の球、土の球がそれぞれ三つずつ出現する。


「【火炎矢ファイアアロー】」


 俺はMPを120ポイント使い魔法を唱えて六本の火の矢を生み出す。


「行きます」


 俺はアリアさんに合図をしてから六本の火の矢を飛ばす。まっすぐ飛んでいった矢は火の球を二つ、土の球を一つ相殺してそれ以外が外れ行く。

 しかし、飛んでいった矢は方向転換をしてから残った火の球と土の球を相殺していった。

 次に残ったMPをすべて使いさっきと同じ魔法を使う。MPがすべてなくなったのでふらついてしまうが唇を噛むことで無理やり耐える。

 ふらつきに耐えながら新しく作り出した火の矢を操作して水の球をすべて打ち抜いた。


「ふぅ」

「殿下!」


 すべて打ち抜けたことに安心した俺は気を抜いて仰向けに倒れてしまう。それに気が付いたソフィアが急いで駆けつけて地面に倒れる前に俺のことを支える。


「大丈夫ですか?殿下」

「ああ、大丈夫だよ。安心して気を抜いちゃっただけだから」

「ジルベルト様、ポーションです」


 ソフィアに大丈夫であることを伝えるとアリアさんがMPを回復させるポーションを渡してくれた。


「あ、ありがとうございます」


 お礼を言った後に俺はポーションを飲む。すると、だんだんめまいが消えていきまともに立てるようになっていく。


「ソフィアもありがとう」

「いえ、当然のことをしただけです」

「それでもだよ。アリアさん、試験の結果はどうでしたか」


 俺はソフィアにお礼をしてアリアさん結果を聞く。


「文句なしの合格です。これで、私の魔術の授業は終わりです。今までお疲れさまでした」

「こちらこそ、今まで魔法を教えていただきありがとうございました」


 そんな感じで卒業試験が終わっていった。


「私、何もできなかった……」

「大丈夫だから。テンリはまだ俺と契約してあまり経っていないけど、ソフィアは俺が生まれてからずっと従者として働いているんだから。比べることが間違ってるよ。これから頑張ってくれればいいから」

「はい……」


 部屋に戻っているときにテンリが俺が倒れた時に対応できなかったことを後悔していたので慰めながら一緒に戻っていった。


 部屋の中に入るとすでにシャルが待っていた。


「あ、にぃさま~」


 俺に気が付いたシャルが抱きついてくる。俺はさっきの疲れが残っているのか少しふらつきながらシャルを抱きとめる。


「もう部屋に来てたのか」

「だって、はやくあそびたかったんだもん」

「それじゃあ、何して遊ぼうか」


 そんな感じでシャルと遊んだ後、夕食を食べ風呂に入り就寝していった。

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