十一話 武術の卒業試験

「……か、……さい。殿下!」

「う~ん」


 大きな声が聞こえたので目を開くとソフィアが俺を起こしに来ていた。


「やっと起きましたか。殿下、おはようございます」

「ふわぁ~。おはよう、ソフィア。今何時くらい?」

「もう、昼ですよ」


 どうやら俺は半日くらい寝ていたらしい。もうすでに経験があるので驚きはしない。


「そうか。とりあえずご飯ある?」

「ちゃんと、持ってきておいてますよ」


 自分の机の方に目をやると食べ物が置いてあった。俺はベッドから立ち上がり使用人たちに着替えさせられる。


「剣術の試験はどうなった?」

「少し遅らせて行うことになりましたので、ゆっくり食べても大丈夫ですよ」


 剣術の試験は予定を送らしてくれたようだ。

 迷惑かけたし後で謝らないとな。


 ご飯を食べて試験の時間が来たので訓練場に来た。今日は剣の打ち合う音は聞こえてこない。


「すいません、リカルドさん。試験を遅らせることになってしまって」


 訓練場の中心で木製の剣を持ったリカルドさんに謝る。


「いえ、大丈夫ですよ。それだけ昨日の試験を頑張ったということですから」


 リカルドさんは笑って許してくれた。


「それでは、さっそく始めていきましょう。私の試験は私と模擬戦をして一本取ることです」


 リカルドさんから試験内容が発表されて木製の剣を渡される。


「分かりました」


 俺が了解の合図を取り、それぞれが反対方向に距離を取る。


「よーい!はじめ!」


 ある程度離れたところでリカルドさんが開始の合図を出す。

 合図が出された瞬間、俺はリカルドさんとの距離を一気に詰めて上から剣を振り下ろすがリカルドさんが防いだので蹴りを入れようとするとリカルドさんがバックステップをして俺から距離を取る。


「やっぱり、一筋縄ではいきませんね」

「そう簡単に負けるわけにはいきませんから」


 俺は少し会話を交わした後、走りながら距離を詰め、突きを繰り出すがリカルドさんは受け流してカウンターを繰り出す。

 やばい!

 俺は急いで足を捻り剣を戻して防ぐ。そのまま、剣を傾けることで剣を滑らし今度は俺がリカルドさんにカウンターを繰り出すがまたもよけられてしまう。


「さすがです。ジルベルト様」

「あれを使うしかないか……」


 俺はリカルドさんの誉め言葉に対して小さなつぶやきをした後、持っている剣をリカルドさんに向かって投げた。


「諦めたのですか?」


 リカルドさんが投げた剣を弾き、にらみながら言って来る。そんなリカルドさんの言葉を無視しながら俺は落ち着いて剣の落下地点を見極めて奥の手である〈縮地〉のスキルを発動させる。


「なっ!」


 俺が〈縮地〉のスキルで一気に距離を詰めてリカルドさんが驚いて隙ができたところに、落下してくる剣をキャッチしてそのまま剣を振るう。


「僕の勝ちです」


 俺は首のところで寸止めして言う。


「合格です。ジルベルト様」


 リカルドさんは持っていた剣を下ろして試験結果を言う。


「それにしても最後に何をしたんですか?この授業では魔法は禁止のはずですが」

「あれは、〈縮地〉のスキルですよ。まぁ、もともとは使う気がなかったんですがね」


 俺はリカルドさんに剣を返しながら種明かしをする。


「なるほど、でも私がジルベルト様のステータスを確認させていただいたときにはなかったはずですが」

「〈隠蔽〉のスキルで隠してたんですよ。奥の手としておくために」

「そういうことだったんですね。それでも、私の負けには変わりません。一本取れとは言いましたがまさか負かされるとは思いませんでした。さすがです、ジルベルト様」


 リカルドさんが褒めてくれる。


「ありがとうございます。そして、今まで剣術や弓術を教えてくれてありがとうございました」

「ジルベルト様も今までお疲れさまでした」


 そんな感じで武術の卒業試験が終わっていき、その日は終わっていった。

 そして、来年になり入学試験の当日となる。

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