九話 召喚獣

「君は?どこかで聞いたことあるような声なんだけど」


 そうなのだ。ドラゴンが発したと思われる声は、どこかで聞いたことのあるような優しさを感じさせる女性の声だった。


『私は神獣の一種である天竜のテンリと言います。会うのは初めてですけど夢の中でお話をしたことがありますよ』


 それを聞いた俺の頭のシナプスが繋がる。


「ああ!夢の中の声か!」

『はい、そうです。それよりもこの姿では話しにくいですね』


 テンリがそう言うと体が光り始めてドラゴンの体が見えなくなる。しばらくして光が散っていくと中から美少女が出てきた。

 白いワンピースを着ていて、肌は透き通るような白い肌に白銀のロングヘアーをしている。


「え?」


 突然のことに驚きの声を上げてしまう。


「これは人化の術を使った姿ですよ。こっちのほうが話しやすいでしょう」

「まぁ、そうだね」

「忘れてました!手を出してくれませんか」


 テンリが思い出したように俺に話しかけてきた。俺は言われた通りに右手を出す。すると、テンリが手を握ってきた。


「な、何?」


 俺は困惑の声を上げる。すると手が光りだし手に紋章が現れる。


「これで契約完了です。私は貴方の召喚獣となりました」

「あ、確かに俺も忘れていた」


 テンリに言われ召喚の儀をしていたことを思い出す。俺は父様に報告に行こうと振り向く。

 すると、みんなは口を開けたまま固まっていた。シャルだけはわかっていないのかみんなの反応に首をかしげている。


「ソフィアー」

「はい、何でございましょう?」


 俺がソフィアを呼ぶと突然横から声が聞こえる。


「みんなどうしたの?」

「おそらく、いきなり現れたドラゴンに驚き、さらにいきなり人に変わったことで固まってしまったのではないでしょうか」

「なるほど……」


 俺は理解した。ドラゴンは知識としては知っていたけどそうそう会うようなことにはならないし、人に変身するようなこともない。そんな異常なことが目の前で起こったら驚いて固まってしまっても仕方ないだろう。


「父様。大丈夫ですか?」


 俺は父様に近づいて声をかける。


「はっ!い、いったいその子は何者なんだ?」


 俺の声で正気に戻った父様が質問してくる。


「私はジルベルトに召喚された召喚獣のテンリ。種族は天竜です」

「て、天竜だって!神獣じゃないか!」


 父様はテンリの説明を聞き驚きの声を上げる。


「父様。とりあえず部屋に戻ってから話しましょう。みんなにも説明しなければいけませんし」

「そ、そうだな」


 父様は俺の言葉に従いみんなで城の中へと戻っていく。


 俺たちは父様の執務室に集まった。


「それで、説明してもらえるかしら。ジル」


 イザベラ母様が俺に聞いてくる。


「この娘は俺の召喚獣として契約した天竜のテンリです」

「天竜って、あの天竜?」

「はい」


 アメリア母様の質問に答えるとみんなが言葉を失う。


「今まで、神獣が召喚されたことなんてあったかしら?」


 イザベラ母様が父様に質問する。


「いや、記録にはなかったはずだ」

「これは、凄すぎて違う意味で問題ですね」

「そうだな」


 父様がスカーレット母様の言葉に同意の言葉を返す。


「このことを公表していますと、その力を欲するものに狙われる危険性があり過ぎるし、戦争の火種にされかねん」


 父様が公表する危険性を話す。


「僕もそう思います」

「やはりそうか。それでは今回の召還は非公開にして、ジルベルトは召喚ができなかったことにしよう」

「俺も、それでいいと思うぞ。父上」

「僕もそれでいいと思います。父上」

「私もそれでいいと思うわ。弟が危険にさらされるなんて嫌だもの」

「それでいいと思うわ、あなた」

「私もそれでいいと思います」

「それでいいと思う。息子を危険にさらすわけにはいかない」

「にぃさま!すごいすごい」


 何もわからないシャル以外の全員が同意したことで家族会議が終了していった。ちなみにシャルは最後まで俺のことを褒め称えてくれた。


 家族会議が終わった後、みんなは解散していき自室に戻っていった。


「それにしても疲れたなぁ」

「にぃさま、遊んでくれないの……」

「シャーロット姫殿下。あまりわがままを言ってはいけませんよ」


 部屋についてきたシャルが俺の発言に悲しそうな言葉を言う。そんなシャルにソフィアが注意するような言葉を放つ。


「別にいいよ、ソフィア。シャルは何して遊びたいんだい?」


 その後、シャルとしばらく遊んであげると遊び疲れたのかシャルは寝てしまった。


「ソフィア、部屋に連れて行って寝かしてあげて」

「かしこまりました」


 ソフィアが俺の命令を聞きシャルを抱っこして部屋から出ていく。


「この部屋の隣に空き部屋があるから、テンリはそこで寝泊まりしてね」

「分かりました。それにしても遊んであげているときのジルベルトは可愛かったですよ」

「やめてくれよ、恥ずかしいから。それと俺のことはジルって呼んでくれればいいから」

「じゃあ、そう呼びます。それでは一旦、隣の部屋を見てきますね」


 そう言いながらテンリも部屋から出ていった。


「疲れた~」


 俺はベッドに飛び込みながら言う。


「今ならすぐに眠れそうだ」


 俺はベッドの上で目を閉じるとそのまま意識を手放した。

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