一話 誕生

「おぎゃゃゃゃ」


 赤ちゃんの泣き声が室内を満たしていく。


「おい!産まれたぞ、イザベラ!」

「はい!可愛い男の子です!」


 うまく目が開けられないが男性と女性の声が聞こえる。


「本当ね。とても嬉しいわ。貴方の息子だから、きっと優しい子に育つわね」

「お前の子だから、とても愛らしいだろうな」


 さっき抱かれていた人から違う人に抱かれる。すると、さっきまでとは違い優しさに包まれたような感覚がする。


「名前はもう考えてあるの?」

「ああ。この子の名前は信念を持った立派な子に育ってほしいという意味を込めてジルベルトにしようと思う」

「私はいい名前だと思うわ。ソフィアはどう思う?」

「私も良い名前だと思います」


 男性の言葉に同意するような2つの女性の声が聞こえる。


「これからのこの子の成長がとても楽しみだわ」


 その朗らかな女性の声を最後に俺の意識は途切れていった。


◇◆◇


 あれから3年の月日が経ち、俺もある程度の自由と自分の状況を把握することができるようになってきた。


「ジルベルト殿下!起きてください!朝ですよ!」

「もうちょっと〜」


 俺のことを起こす女性の声が聞こえてくるが、俺は布団を深く被り、また夢の世界に旅立とうとする。


「ダメです!朝食の準備はもう出来ているんですから、早く起きてください!」


 無理やり被っていた布団を剥ぎ取られて、夢の世界に旅立とうとしていた意識が現実へと引き戻される。


「う〜ん。おはよう、ソフィア」

「はい、おはようございます。殿下」


 俺は目を擦り背伸びをしながら、俺を起こしていた人物に挨拶をする。

 起こしに来た人物は水色の髪のロングヘアーで、青い瞳を持ち黒いツノが生えている。この人は俺の専属メイドであるソフィア・サーペントだ。


「今日の予定は?」


 ソフィアと共に部屋の中に入ってきた使用人たちによって服を着替えさせられながら今日の予定を聞く。


「今日の予定は、ステータスの儀を行った後に武術と魔法の講師との顔合わせとなっております」


 俺はこの3年間である程度の自分の立場や世界のことを知ることができた。

 まず、俺の名前はジルベルト・ロワ・クロノス。クロノス王国の第三王子で正妃から産まれた長男である。容姿は金髪青眼になっている。また、この世界には魔法が存在している。そのおかげである程度文明が進んでいたりする。そして、とてもゲームに似ているような世界だった。

 ステータスがあったり、ダンジョンがあったりする。ただ、ゲームと少し違う点も見受けられた。それはステータスにHPが存在しないことである。今集まっている情報はこのくらいだ。


「わかった。じゃあそろそろ、食堂に行こう」


 俺はそう言いながらソフィアを連れて食堂へ向かう。廊下に出て歩いていると、掃除をしている使用人たちが俺に向かってお辞儀をして挨拶をしてくる。

 俺はもともと高校生だったから最初はあまり慣れていなかったが3年も経てばある程度慣れて今では気にならなくなっている。

 しばらく歩きある扉の前で止まる。


 コンコン


 ソフィアが扉をノックしてから扉を開く。


「殿下、お入りください」


 ソフィアが部屋に入るよう促してきたので入室していく。

 部屋の中は長机が有り、すでに2人の人物が席についていた。俺も自分の席である左側の1番手前の席に座る。


「おはよう、ジル」

「おはようございます。ロベルト兄様」


 俺が席に座ると隣に座っていた人物が話しかけてくる。

 この人は、この国の第二王子で第一側妃の次男であり、俺の8歳上の兄でもある、ロベルト・ロワ・クロノスだ。金髪赤眼でいつも冷静な人だ。


「おはよ、ジル。今日のステータスの儀は楽しみね」

「おはようございます、エミリー姉様。王族に恥じないステータスであることを祈っています」


 ロベルト兄様と話していると目の前の席から話しかけられる。

 この人はこの国の第一王女で第二側妃の長女であり、俺の3歳上の姉でもある、エミリー・ロワ・クロノスだ。緑色のツインテールをしていて金色の瞳を持っている。魔法が得意でよく魔法の研究をしていた。


 その後も3人で話しているとだんだん家族が集まってくる。

 最初にやってきたのはこの国の第一王子で第一側妃の長男であり、俺の10歳上の兄でもある、イグナシオ・ロワ・クロノスだった。容姿は赤髪金眼でガタイがいい。


「おう、すまんな。遅れちまって。でも母上たちはまだ来てないんだな」

「おはようございます、イグナシオ兄様」

「おはよ、イグナ兄」

「おはよう、イグナシオ兄さん。それにしても、兄さんとエミリーはもっと王族らしい言葉を使った方がいいよ?」


 ロベルト兄様が挨拶を交わした後、2人を注意する。


「すまんな、ロベルト。俺には堅苦しい言葉が性に合わねぇんだ」

「私もイグナ兄と同意見よ。ロベルト兄」

「まったく2人は……」


 ロベルト兄様は2人に呆れたような言葉を漏らす。

 2人とも堅苦しいのが嫌いだからなぁ。イグナシオ兄様は熱血で自分を鍛えることが好きだし、エミリー姉様は興味があることに関しては真面目なんだけどそれ以外はズボラだからなぁ。


 その後も4人で世間話をしていると3人の人物が食堂にやってくる。


「ごめんね〜」

「遅れてしまいました」

「準備が長引いちゃって」


 この3人はこの国の王妃たちだ。

 最初に謝っている人は正妃であり俺の母親のイザベラ・ロワ・クロノスだ。髪と眼は俺と同じ色をしている。性格は優しくて穏やかな人だ。

 次に入ってきた人物は第一側妃であり、イグナシオ兄様とロベルト兄様の母親である、スカーレット・ロワ・クロノスだ。赤髪赤眼で立ち振る舞いがきっちりしている。元々、王妃になる前は使用人だったそうだ。

 最後の人物は第二側妃でありエミリー姉様の母親である、アメリア・ロワ・クロノスだ。緑髪緑眼で寡黙な人だ。王妃になる前は、ソロ冒険者だったそうだ。


「大丈夫ですよ」

「それよりも、父様はどうしたんですか?」


 ロベルト兄様が母様たちに許しの言葉を言った後、俺が質問をする。


「あの人はまだ職務中で、ジルのステータスの儀にも参加できないそうです」


 スカーレット母様が俺の質問に答えてくれる。


「そうなの。それよりも私は早くご飯が食べたいわ」

「そうね」


 エミリー姉様の言葉にアメリア母様が短く同意する。すると、使用人たちが俺たちの前に食事を並べていく。

 朝食の献立は牛肉を主体とした献立だった。ちなみにこの国の主食はパンなのでバスケットの中にパンが置かれている。

 もう慣れたけど、やっぱり米が食べたいな。


「それじゃあ、ご飯にしましょうか。神に感謝を」

「「「感謝を」」」


 正妃であるイザベラ母様が食事の挨拶をして、それに合わせてみんなで神に感謝を捧げて食事が始まっていく。

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