第拾肆章 魔女狩りの裏

「お疲れ様でやす、組長オヤジ。どうやら首尾良くいったようで」


 甲冑姿でありながら足音ひとつ立てることなく、裁判の舞台となっていた謁見の間から戻ってきた月弥を三池組・組内・霞一家・総長おシンが労う。


「ああ、ちとアカギの姐さんには気の毒だったがな」


「あの御方は腹芸も演技も出来ねぇでやすからね。良くも悪くも素直過ぎまさぁ」


 おシンは苦笑しながら月弥をある一室に案内した。


「この部屋は徹底的に調べ上げて“目”も“耳”も無い事は確認済みでやすよ」


「御苦労さん」


 月弥が用意されている椅子に座ると太白たいはくの甲冑が消えて、黒袴の道着姿になった。


「で、『一頭九尾ナインテール』の方々はどうでしたかい?」


「俺の見立てじゃ『鬼龍王』だな。あのプライドの塊が俺の挑発を受けても一言も云い返さなかったぜ。大人の対応とかじゃねぇ。その証拠に擬態が解けかかって頭から角が飛び出していやがった。地母神オヤジもきっと何かを嗅ぎ取ったンだろうな。右手側の先頭が怪しい・・・・・・・・・・って合図を送ってきたよ。つまりは俺の右手側の一番前に座っていたアンニャロウの事だ。あの堪え性の無ェ『鬼龍王』がぶるぶる震えながら俺を見送ったのも、"暫く大人しくしていろ”と指示されてたンじゃねェか?」


「ま、『鬼龍王』の旦那は前から地球を狙ってやしたからねぇ。魔界にいたままじゃ『月の大神』の姐さんに頭を押さえ付けられたまんまでしょうから、新天地に野望を見出していたとしても可笑しくはありやせんぜ」


 月弥はハッと吐き捨てる。


「莫迦だねぇ。地球に来たところで返り討ちに遭うだけだろうさ。何せ世界中に“悪しきモノ”と戦い続けている猛者もさがわんさかいるンだぜ? 仮に日本に来てみやがれ、東雲しののめ流と三池流が宣戦布告をする前に袋叩きにしちまうよ」


 鋼鉄より堅いとされるドラゴンの鱗も森羅万象を斬り裂く『月輪がちりん斬り』によって容易く截断されてしまうだろうし、炎のブレスも三池流魔法術・・・・・・を学んだ精鋭達によって簡単に封じられてしまうのだ。


「まあ、望めば神になれるだけの力を持つに至った『古き龍』ではあるがな。『月の大神』に首根っ子を掴まれているような体たらくで、世界なんか獲れるものかよ」


「しかし、神に近いからこそ『月の大神』の神託を上書きして、星神教の上層部に"魔の眷属、魔女を滅ぼすべし。その笑顔の裏に隠された悪意を見逃すべからず。神の怒りの裏に秘された愛を受け止めよ”ってぇ宣託を授ける事が出来たってワケでやすからね。侮れやせんよ」


 あの裁判の形をした茶番は『月の大神』の神託を握り潰し、都合の良い御告げに掏り替えた“敵”を見定めるという意図があったのだ。


「ま、いずれあのトカゲの大将には落とし前をつけさせてやる。だが、それはまだまだ先の事だ。今は泳がせて、この魔女狩りを仕組んだ黒幕を突き止めるのが先決だ」


 月弥は身の乗り出して対面に座るおシンへと獰猛な笑みを浮かべた顔を近づけた。


「これから忙しくなるぞ。兎に角、捕まったり追われている魔女の救出を最優先にしながら、俺とお前、後はナオで黒幕を特定しなけりゃならねぇ。頼りにしてるぜ?」


「それは承知しておりやすが、トラのあにぃは良くないんで?」


「良くはないな。もうすっかり痩せ細って元の半分になっちまったかのようだぜ。今はモルヒネで痛みを抑えるのが精一杯でな。医者の話じゃ後、半月持つか持たねェかってところらしい」


 慈母豊穣会・枢機卿・東雲寅丸は風邪を拗らせて病院に行ったところ肺癌が見つかったのだが、既に体の至るとこに転移しており手の施しようがなかったらしい。

 元々、引退を考えていたので、良い機会だとポジティブに考える事にして、大司教を務めている二人の息子に枢機卿を継がせるべく教導していたそうだ。

 同じように自分も引退して次代に教皇を譲り、組織の若返りを考えていた月弥も、ついでとばかりに後継者として二人を教導していた。

 厳しい教導の結果、明るく面倒見が良い事から信徒からの人気が高かった弟が教皇を継ぎ、頭脳明晰で組織運営に適正のあった兄が枢機卿を継ぐ事になる。

 それを兄が不服に思って後継者争いになっても困るので、一応それとなく不満が無いか訊いてみたところ、“自分はトップより一歩引いて組織を仕切っている方が性に合っている”と答えたので月弥も胸を撫で下ろしたそうな。

 兄弟が次代を担うに相応しい力を着け、信徒達からも新たな教皇と枢機卿の誕生を歓迎されると、自分の役目は終わったと云うかのように寅丸は一気に力を失い、病床の人となってしまうのだった。

 

「俺が見舞いに行くとな、“叔父貴は今、こんな所にいる暇は無いであろう。早く魔女達を助けに行ってやれ。もうすぐ死ぬ人間よりこれからを生きる人間・・だ”ってエラい剣幕で追い返されちまったよ」


 笑いながら報告する月弥であったが、その目に光るものがあった事をおシンは見て見ぬふりをした。


「小さい頃は俺の後ろをちょこちょこ追いかけてな。俺が姫子らと仲良く遊んでいると引っ付いてきて“ダメ! のんちゃんはボクのお嫁さん!”って泣いていたものだったが、今はもうお迎えを待つばかりか……時間の流れは残酷って善く云ったもんだ」


「やつがれも請われて霞の技を教えた事がありやすが、弟子が師より先に逝くっていうのはこんなにも辛いものだったんでやすねぇ」


 二人は同時に鼻を啜った。

 余談になるが、月弥の“のんちゃん”なるニックネームは、月弥が分家衆から“月さん”と呼ばれている事から連想されたものである。

 “月さん”から“お月さん”となり、神仏や月を表す“のんのさん”となり、幼かった寅丸がそこから“のんちゃん”と呼ぶようになったものだ。


「ところでマサは見つかったのか?」


「まだ見つかったという報告はありやせんね。ただあの爆発でやすから生存は難しいかと……らしくない事をするからでやすよ」


「あと一日で良い。もう少し探してやってくれ」


「へい」


 三池組・若頭補佐の一人、神崎政延は魔女として捕らえられた女性達の探索中に彼女達を連行する騎士団と遭遇戦となり、彼女達を救うべく孤軍奮闘をしていたが、元々が非戦闘員の技術職ということもあってすぐに追い込まれてしまったそうだ。

 それでも神崎は彼女達を逃がす為に騎士達の壁となり続け、ついに槍で貫かれてしまう。しかし、絶対に女性達を逃がしてみせるという意地から騎士団を道連れに自爆をしたと、無事に逃げおおせて慈母豊穣会に保護された女性達からそのような報告があったのだ。


「あれほど無理をせずに、ヤバくなったら逃げろって云い含めておいただろうが、あのバータレが! だが遺された妻子と神崎エンジニアリングは俺が責任を持って一生面倒を見てやるから安心しろ。俺の親友ダチだった爺さんに宜しく云っておいてくれや」


「それで星神教の異端審問会にはどのように報復をするんですかい?」


「報復は無しだ。マサの自爆に巻き込まれた騎士達にも親や妻子はいるだろう。神殿騎士とて仕事でやっていたはずだ。それで報復していたら憎悪の連鎖が生まれて最後は慈母豊穣会と星神教の戦争だ。そんな事は神崎も望んじゃいねェだろ」


 向こうも莫迦じゃなければ報復はしないだろう、と月弥は深く息を吐いた。


「では下の者達にもそう伝えておきやしょう。万が一、向こうが報復にきたら、殺さずに捕らえておくよう云い含めておきやす」


「頼むわ。暴走する莫迦がいるのは慈母豊穣会うちも同じだし、星神教には話の分かる慈悲深い僧侶だって大勢いるンだからな。兎に角、今は一人でも多くの魔女を救いながら黒幕の正体を掴む事に専念しよう」


 月弥の言葉におシンは頷いた。


「で、依頼人の方はどうだ?」


 月弥の問いにおシンは珍しく渋い顔をする。


「こっちも芳しくありやせんね。ありゃあ腹ン中に相当蟲が涌いておりやすよ。トラの兄ぃじゃねぇですが、半月持てば良いところでさ」


「チッ、悠長にはしてらんねェか。で、連中の正体は分かったのか?」


「いえ、目眩めくらましの術を使って口を割らせようとしやしたが、どうも強烈な暗示をかけられているようで、肝心の黒幕の名前どころかテメェの名前も云えない有り様でやすよ。自害用の毒を奥歯に仕込んでいるあたり、連中の背後には大きな影が潜んでいるようでやす。それもかなり巨大なね。恐らく“敵”は個人ではなく組織なんじゃねぇですかねぇ?」


「ああ、それも相当厄介な組織だろうな。何せ、星神教の神もプネブマ教の大精霊も自分で召喚した勇者が入れ替わってる・・・・・・・・・・事に気付いてねェンだからよ」


 死んだ三名の勇者とは自害した偽者であり、重傷を負った二名は抵抗が激しすぎる為に止むを得ず斬るしかなかった者達だ。そして発狂した二名はおシンが術を遣って話を聞き出そうと試みたところ、何かしらのトラップがあったのか、精神に異常をきたしてしまったのである。


「で、一人は俺達か組織か分からんが、恐怖のあまり一度入ったら二度と抜け出せねェ『迷いの大森林』に逃げ込ンじまうし、唯一、保護を求めてきた偽勇者は黙して語らず、無理に聞き出そうとすれば発狂した二人の二の舞か。八方塞がりだな」


「最後の一人はどうなんですかい? 未だに勇者として活動しているようでやすが」


「あれは本物だよ。保護した偽者が唯一話した事にゃあ、あの勇者は入れ替わろうとしていた仲間を一瞬にして小間切れにしちまった上に死体を燃やし尽くしちまったとよ。黒髪で偽者を雁字搦めに巻き取ったかと思えば、次の瞬間にはバラバラだとさ。しかも魔法も遣わず睨んだだけで死体が燃えたそうだ。で、髪を操る前に“こくじょう”と呟き、睨む時も“しょうねつ”と呟いたってよ」


 月弥の報告におシンは口に右手を当てて考え込む。


「日本の地獄に黒縄地獄っていうのがあるのをご存知で?」


「ああ、八大地獄の二番目だろ? 墨壺で亡者の体に線を引いて、その通りに鋸や斧で刻んじまうンじゃなかったか? で、その墨壺が黒縄地獄の名の由来だろ?」


「ええ、その通りでやす。ですから黒髪を使って相手をバラバラにしちまった能力こそ『黒縄』って名前なのではないかと思いやしてね」


「って事は偽勇者を燃やしたのは『焦熱』か。他にも“しゅうごう”と云って爪を伸ばして剣のようにした事から、これは『衆合』だな。随分と恐ろしい力を持った勇者が現れたもんだな、おい」


 神が云うには、その勇者にはチート能力を与えていないとの事なので、持って生まれた能力という事なのだろう。


「笑えるのが、神が与えた聖剣より『衆合』で伸ばした爪の方が斬れ味が凄まじくて丈夫らしいや。他にも『等活』とか『叫喚』といった能力もありそうだ。実際に会って話を聞くのも面白そうだな」


「およしなせぇ。下手に怒らせて、“臛臛婆かかば”だの“虎々婆ここばだの叫びながら氷付けにされるオヤジは見たかありやせんぜ」


 おシンが忠告するが、月弥は“そういや八寒地獄もあったな”と笑っている始末だ。


「おまけに頭も切れるようだ。オークで構成された中隊がその勇者のいる街を襲撃しようとしたそうだが、街を囲う壁の上に鎧やら有り合わせの金物を鎧のように見せてずらっと並べてな。しかも入口の門をわざと開けて隠れている街の衆に鬨の声を上げさせたンだとよ。そしたらオークの奴ら、街には大勢の兵がいて罠が仕掛けられていると勘違いして逃げていったってよ」


「ははぁ、バケモノ染みた力を持ちながら『空城くうじょうの計』を用いやすかい。こりゃ、たった一人になった勇者の負担を考慮するどころか、『死者の王』のお命の方が危ういんじゃねぇですか?」


「お命も何もとっくに死んでンだろ。ある意味、究極のチートだわな」


 それもそうでやすな、とおシンも頷いたものだ。


「ふむ、何にせよ。残った勇者がどうこうされる心配は無さそうでやすし、やつがれ達は魔女狩りの対処に専念出来そうでやすな」


「だな。取り敢えずは当初の作戦通りに魔女狩りの拠点を虱潰しにしていって、女達を助けつつ異端審問会を拉致して締め上げていくか。時間はかかるが地道にやっていくしか無いだろうな」


「急がば回れとも云いやすしね。偽勇者を送り込んだり、魔女狩りを煽ったりと何がしたいのか動機が分からねぇ事には、それしか動きようが無いでやすから」


 二人は頷き合い、部屋から出ようとするが、二人の前に黒い高級スーツを着た五十絡みで能で使う武悪ぶあく面をそのまま生身にしたような強面の男が現れて立ち塞がった。

 しかし、顔の造作は厳めしいがメガネの奥にある目は澄んでいて、善く観察すれば優しげな光があるのが分かる。

 直参・三池組・組内・大木会・会長にして三池組・若頭補佐の一人、大木直斗だ。


「おう、どうした、ナオ? お前には依頼人の警護と彼に近づく人間で怪しいヤツがいないかチェックしろと頼ンでいたはずだが、何かあったのか?」


 見れば大木は全身に大汗をかいている。

 急いで魔界に来たのは分かるが、それだけではないだろう。

 表情を見れば尋常ならざる事態が起こったのは明白であった。


「オヤジ……マズい事になりました」


「どうした? お前がそこまで焦った顔をするのは珍しいぞ。何があった?」


 大木は一瞬迷ったが、もったいつけても事態は改善しないと思い直して口を開く。


「ユームの姐さんの情夫イロ、オアーゼさんでしたか。あの人が処刑されました」


「何だと?! あの人は公爵だぞ。それも聖帝と血縁関係にある皇族公爵だ。それが何でいきなり処刑されるンだよ?!」


「どうやらユームの姐さんが魔女狩りの的にされちまったようで、それを救う為に聖帝に談判した所、怒りを買って裁判無しでいきなり斬首の刑にされたようです」


「聖帝て……そン時、依頼人はどうしてたンだよ?」


「あの人はもうベッドから起き上がれる状態じゃありません。どうする事もできませんよ。しかも悪い報告はこれだけでは無いんです」


 大木の顔が焦燥から月弥を気遣う色に変わったので嫌な予感がした。

 事実、大木はオアーゼの時と違って口にする事を逡巡している。


「云ってくれ。オアーゼの旦那以上の凶報だろうと受け入れてやるから」


 真っ直ぐ見詰めてくる月弥に大木はいきなり自分の頬を張った。

 決断した大木は口の端から垂れる血をそのままに報告を続ける。


「実はオアーゼの旦那と一緒にユームの姐さんの助命を訴えていたご長男とご次男もスチューデリア兵に捕まり、民衆が見守る中……縛り首に」


「何だと?! 長男と次男ってカストルとポルックスの双子か?!」


「へい、魔女の子として民衆に石と罵声を浴びせられながらの無惨な最期だったそうです。しかもお二人の死体とオアーゼの旦那の首は“風化するまで晒せ”と厳重な警護の元、何重もの頑丈な檻に入れられて晒されているようですぜ」


 月弥は血の気の引いた顔で口元を手で覆ってしまう。

 おシンと大木は静かに月弥の言葉を待っている。


「おシン、すまねぇが魔女の谷に行ってバアさんの様子を見てきてくれ。場合によっては魔女の谷に留まって動向を見ていてくれ。くれぐれも無茶な事はさせるンじゃねェぞ」


「へい、承りやした」


「ナオ、お前は引き続き依頼人の警護を続けろ。片時も目を離すな。次にヤバいのは多分、依頼人だ。誰であろうと近づけるな。女房も子供もだ。良いな?」


「承知しました」


 月弥はどっと椅子に腰を下ろした。


「何がどうなっている? 何が起こっていやがる? 偽勇者と同じ手口なのか?」


 青ざめた顔でこれからの事を考える。

 月弥が顔を上げると、何もない空間にパソコンの画面のようなものがいくつも浮かび上がった。

 更に手元に光で構成されたキーボードのようなものまで現れる。

 テンキーに目を向けると、画面に電話番号らしい数字が打ち込まれていく。

 数回のコールの後、“ふぁあ…い”と返事なのか欠伸なのか分からない声と共にタンクトップにショーツというだらしない姿の少女が画面に現れた。


「いつまで惰眠を貪っていやがる!! シャキッとしろい!!」


『は、はいっ?!』


 月弥の剣幕に少女は何故か敬礼をした後、画面から消えた。

 『アイタ』とか『メガネ、メガネ』という声が聞こえるから通信が切れているワケではないらしい。

 暫くして先程の少女が何故か青を基調としたケピ帽と軍服を身に着けた格好で再び画面に現れた。


『やあ、愛しのミーケ姫。嬉しいよ、ボクにラブコールをくれるなんてね』


 どうやら騎士か王子様を気取っているらしく胸に手を当てて優雅にお辞儀をしているが、ケピ帽を被っても誤魔化しきれていない寝グセが間抜けで情けなかった。

 彼女こそ東雲寅丸の孫にして次期枢機卿の長女である東雲明である。

 高祖母であるアルウェンから、日本人の血で淘汰されたはずの金髪を何故か受け継ぎ、耳まで長く尖っているエルフそのものの容姿をしていた。

 折角の金髪をショートにしてしまい、人間離れをした美貌もまた分厚い瓶底メガネで台無しにしているが、何故か服装だけはこだわりを持っており、騎士風や王子様風の装いを好んでいる。

 そしてアルウェンのように気障な口調で話すのだが、瓶底と寝グセのせいで様になっていないのだ。

 しかもセリフにあるように月弥を姫と呼んで事あるごとに口説いてくるのである。


「まだ目が覚めてねェようだな。待っててやるから味噌汁で顔を洗ってこい」


『ふふ、つれないね。でもそんなミーケ姫も大好きさ』


 月弥は頭を抱えたくなるのを辛うじて堪える。

 本音を云えば、頼りたくはないのだが、今は手が足りないという事もあるが、見かけによらず彼女は腕が立つし便利なスキルを持っているので手を借りるしかないのが口惜しい。


「手を借りてェ。魔女狩りの拠点をいちいち内偵して捜している暇が無くなった。お前の持つ演算能力で拠点の割り出しを頼みたい。で、魔女裁判にかけられている魔女の救出と異端審問会の拉致を手伝ってくれ。報酬はキャッシュで一億だ。それと魔女を含めた女達の救出に成功すれば一拠点につき一千万払おう。異端審問会を生け捕りにすれば一人当たり百万だ。どうだ?」


『お金なんていらないさ。こう見えてボクはイラストレーターとして十分稼いでいるからね。今は急ぎの依頼はない事だし引き受けても良いよ。報酬はボクと一緒にディナーを愉しんでくれれば良いさ』


「ディナーってお前の手作りじゃねぇか。旨いのは認めるが一度に作る量が莫迦なんだよ。俺は小食なんだ。山のように積み上げられた唐揚げなんざ見ただけで胸焼けがすらァ。俺は茶漬けの一杯しか付き合わんぞ」


『まあ、今のところはそれで良いさ。焦って欲をかいて姫に嫌われてしまっては本末転倒というものだしね』


「宜しく頼まァ。後で迎えを寄越すからすぐに来てくれ」


 引き受けた旨の言葉は聞いたのだ。

 明が何かを云いかけているのを無視して通信を切る。


「これでマサを失った分は取り戻せるか?」


 月弥はおシンと大木に向き直る。


「さあ、動くぞ。マサだけじゃねェ。オアーゼの旦那とカストル、ポルックスの弔い合戦だ。これ以上の悲劇を喰い止めるぞ!」


「「へい!!」」


 出て行く二人を見送りながら月弥は溜め息をつく。

 椅子に深く身を預けながら独りごちる。


「さあ、事態はどう動く? オアーゼの旦那を殺したヤツと依頼人、どっちが本物の聖帝・・・・・・・・・だ?」


 月弥は目を閉じる。

 思い浮かべるのは恋人のクーア・・・・・・の顔だった。


「出来る事ならキミと会いたいよ。クーアはオアーゼさん達の死をどう受け止めているんだろう?」


 心細さを紛らわす為に月弥は膝を抱えるのだった。

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