第拾弍章 湯の中の語らい
孤児院の中にあるとは思えぬ豪勢な大浴場に三人の影があった。
一人はご存知、慈母豊穣会・教皇ミーケこと三池月弥、もう一人は魔女ユームの子であるクーアであったのだが、二人とも気不味げに顔を反らしている。
何故ならレヒトの胸には二つの膨らみがささやかながらもあったからだ。
地球と違い、
実に全人口の二割が両性具有であるそうで確率はかなり高いと云える。
それは人間に限った話では無く、エルフやドワーフなどにも当て嵌まるそうな。
「お前、
「いえ、師弟の契りを結んだ以上、俺は先生に尽くすつもりです。先生の行くところなら、たとえ火の中、水の中だろうと厭いません! それに俺は親父や親戚、借金取りに犯されててもう嫁に行ける体じゃないですから、気にしないで下さい!」
気にするなというのが無茶な話である。
親から虐待されていた事は聞いていたが、まさか親戚から金を借りる為、借金の返済を待ってもらう為に体を差し出されていたとは想像していなかったのだ。
「取りあえず傷を治すからクーアも手伝え」
「うん、分かったよ」
クーアが生傷の上に手を翳すと、掌から光を帯びた水が溢れる。
光る水が傷を覆うと立ち所に塞がっていくではないか。
水の精霊の力を借りて傷を癒やす水を精製する『ヒーリングウォーター』だ。
この魔法は深い傷を負った際に本領を発揮する。
傷口を覆う事で患部を保護し、そこから入った雑菌や毒を排除する力があった。
しかも痛みを和らげる効果もあり、傷を癒やしながらすぐに戦線に復帰する事ができるのだ。ことパーティー戦で重傷を負った前衛を治療する事に向いている。
「じゃあ、俺は古傷を治すか」
魔王と直接契約を交わし騎士となった者には様々な恩恵が与えられる。
一つ目は契約の際に三つの願いを叶えて貰える権利。
二つ目は単純ではあるが、魔界における地位と権力。
そして精霊と同様に魔王の力を借りて行使する暗黒魔法と呼ばれる技術である。
これは契約した魔王の特性によって遣える魔法が異なり、それによって契約したいと思う『
例えば盗賊の守護者である『盗賊王』と契約をすれば、罠の有無を調べる『
『死者の王』からは死者を操る『
では
何故、治療の最中に今の説明を入れたのか、不思議に思う向きもあるだろう。
その答えはすぐに月弥が出してくれた。
「見た目はグロいが痛みはほとんど無ェから我慢しろよ」
月弥は右手の人差し指と中指を立てると、既に塞がってはいるものの無惨にも引き攣れている傷に宛がった。
右手がピンク色の靄に包まれたかと思えば、中指が触れていたレヒトの古傷が煙を立てて焼け爛れる。
「ヒッ?! 先生、何を?!」
「痛みは無いっつったろ? 善く見ろ」
焼け爛れた肌が人差し指から放たれた光によって瞬時に治癒されていく。
しかも古傷は綺麗に消えて、本来の瑞々しい肌に戻っていた。
「こ、これは?」
「
だったら初めから云えば良いのにとクーアは思ったが、“古傷を焼き潰してから肌を再生させる”と説明されて“どうぞ”と云える患者はいないだろうなと思い直した。
そして思い知らされる。これほど精密な治療魔法を遣えるミーケと自分とでは初めから勝負になっていなかったのだろうと。
ちなみにこの魔法は“堅気になって懸命に生きろ”という願いを込めて『
「最後に膣と処女膜も治してやるからな。後でおシンに犯された記憶も消して貰おうか。いずれは良い縁談を捜してやろう」
「ああ、借金取りに入れられたタトゥーまで消えて……ありがとうございます」
かつて逃げられぬよう太腿に入れられた髑髏のタトゥーも見事に消えたのを見て、レヒトは漸く自由になれたと実感した。
「これで綺麗になったな。こうして見るとお前も中々の別嬪じゃねェか。今後、男として生きるにしろ、女として生きるにしろ、将来の伴侶は選り取り見取りだ」
「別嬪って……」
「ま、これからは自分を大切にして生きていくンだな。自棄を起こさず一日一日を大切に送っていれば幸せの方から歩み寄ってくるってもんだぜ。少なくとも俺の目が黒い内はお前を不幸にしようとする輩は近づけさせやしねェからよ」
「先生」
月弥は笑いながら浴槽に身を沈めた。
「久々に神経使う魔法を遣ったから肩が凝っちまったぜ。レヒト、肩を揉んでくれ」
「はい、ただいま!」
早速、レヒトをコキ使う月弥に苦笑しながら、クーアも湯船に浸かるのであった。
「
浴場に入ってきた幽鬼の如く青白い少女を見てクーアとレヒトの背筋が凍った。
まるで幽霊のように音も無く入ってきた事もそうだが、浴場の扉が開いた音すら聞こえなかったからである。
況してや前髪で目が隠れているのも不気味さに拍車を掛けていた。
しかし月弥は平然と手を振っているではないか。
「おう、悪いな。後でお前ンとこの事務所に報酬を届けさせるからな」
「普段から面倒見て頂いているのに、これくらいの事で報酬は頂けやせんや」
「そうはいくかよ。個人的な頼みとはいえ仕事をして貰ったからには報酬はきちんと払うぜ。そこン所をなあなあにすると綻びが生じるからな」
「そういう事なら遠慮無く」
三池組・組内・霞一家・総長・
シャラン。
金属同士が擦れるような軽い音と共におシンの姿が消える。
「ま、折角だしやつがれも風呂に入らせて頂きやすよ」
「えっ?」
いつの間にか一糸纏わぬ姿となったおシンが洗い場で体を洗っていた。
そして漸くおシンが少女ではなく少年である事を知ってクーアは驚いた。
色鮮やかな花や蝶を染め抜いた黒い小袖から勝手に女の子と思っていたのだ。
「そういや、おシンは何でいつも着物姿なんだ? お前との付き合いはもう半世紀じゃきかないが男装をしている姿を見た事ァ無いンだが」
「そうでしたかい? まあ、母親の形見と思っておくんなせぇ。やつがれを産む前に松の木にぶら下がったそうでね。それから暫くして腐り蕩けた母親の腹を破って産まれたというか、落ちてきたのがやつがれだそうですぜ」
「また壮絶な産まれ方をしたな」
「その後は育ての親でもある師匠に飴で育てられやしてね」
「飴?」
「まあ、師匠もこの世の者じゃなかったんで御座ンすよ。金はあったけど今みたいに粉ミルクがあった時代じゃねぇでやすから仕方なかったんじゃないですかね」
「いよいよ怪談染みてきたな。着物の話をするだけだったンだがよ」
口とは裏腹に月弥は興が乗ったと云わんばかりに身を乗りだした。
反対にクーアとレヒトは顔を青ざめさせて距離を取っていたが。
「で、師匠から同じ霞姓を頂き、“信念を胸に志を持った立派な男”になるようにと信志ってぇいう名をつけてもらいやしたのさ」
師は母親の形見だと彼女の片袖を斬り取り信志に渡したという。
そして無惨に腐った母親の遺体を小袖ごと荼毘に付したのだが、翌日には信志は母親が生前そうしていたように完全な状態の小袖を着ていたそうだ。
「以来、やつがれは小袖を御包みにして育ち、稽古の時すら小袖姿でした。いや、師匠には道着を用意して頂いてたんでやすがね。稽古の最中でも気が付けばいつの間にやら小袖になっていたんでやすよ」
小袖を脱ぐときは風呂か洗濯をする時だけで、それ以外は小袖姿であったという。
しかも洗濯をしようにも汚れが全くついていなかったそうで、山野を駆け回ろうと、どれだけ汗をかこうと決して染みひとつつかなかったらしい。
「でね、師匠から霞流の免許皆伝を許された時に気付いたんでやすが、やつがれは十五の頃から全く歳を取っていなかったんでさ。まあ、その時のやつがれは軽く還暦を超えてやしたから、師匠もやつがれもどれだけ暢気なんだって話でやす」
「はぁん。お前さんの体からは人間以外の血が入っている匂いはしねェけどな。長命種でもないのに今なお若いアンタの正体って何なんだ?」
今更それを訊くのかとクーアは呆れた。
「さてね。そもそも親にしてもどこの誰かは分からなかったんでやすよ。ただ母親の死体には
「ふぅん。ちなみに師匠とやらはその後どうしたンだ?」
「やつがれが剣術を始め、柔術や投毒術、手裏剣術、馬術と霞流の悉くを継承したからか、思い残す事は無いって成仏しちまいましたよ。置き土産に隠し財産と秘伝書を遺してね。まあ、いい女でやしたよ。“自分の代で霞流を滅ぼしてしまった”と嘆くその憂い顔がまた色っぽくてね。成仏する間際、必死に口説いて口説いて童貞を捨てさせてもらったのも良い想い出でさぁ。師匠の方も本音を云えば、男を知らぬまま成仏したくはなかったようでしたからねぇ」
「ほぉん。上手い事やりやがったな」
「そ、そうかな? 初めてが幽霊って……」
魔女ゆえか幼くして性に関する知識を持つクーアは頬を引き攣らせた。
月弥はレヒトに向かって云う。
「この目眩のおシンはな。自分を小悪党と抜かしちゃァいるが、今の俺が全力を出しても
「先生よりもお強いとは……」
「ああ、そのお人が新しいお弟子さんですかい」
おシンはレヒトの顔を覗き込む。
途端に金縛りにあったように体が動かなくなる。
月弥の瞳が闇色と表すほどに黒いなら、おシンの瞳は虹彩と瞳孔の区別がつかないまでに黒一色であった。
「なかなか良い
「お、分かるかい? 俺も久々に良い弟子を取れたと思っていたところよ」
おシンの言葉に月弥は嬉しそうに返す。
右目が開いていない為、ウインクをしているようにクーアには見えた。
「セーリュー? ゲンブ?」
体が動くならレヒトは首を傾げていただろう。
「ああ、ついでに三池流の修行の流れを教えておこうか」
三池流には四つの段階があり、入門したばかりの門下生は白虎衆の呼ばれている。
これは十五歳未満或いは入門から三年未満の者で構成されており、基礎となる走り込みや素振り稽古をこなしつつ、基本となる技の稽古を徹底的に仕込まれるのだ。
そして入門三年以上かつ十五歳以上になった者が試験を受けて合格すると次の段階である朱雀衆に進む事を許される。
朱雀衆は真剣による稽古を許され、奥義を除く応用技の稽古や希望すれば槍、弓、馬術、鎖鎌、棒術など武器術の受講もできた。
門下生の大半はこの朱雀衆であり、修行期間も一番長いだろう。
それだけ覚えるべき内容が多いのだが、仲間も多く、何より上達を実感できる時期でもあるので、三池流の修行の中では最も面白い段階であると云える。
朱雀衆の中でも奥義を得るに相応しいと師に見込まれた者達は青龍衆に入り、奥義修得の修行を許された。
また青龍衆は奥義を別とすれば全ての技術の熟達者であるので、宗家の許可があれば師範代として白虎衆や朱雀衆の指導を任される事もあるという。師範代となった者はその段階で指南料を免除され、逆に師範代としての給金が支払われるようになる。
「ちょっと待ってよ。四つの段階って云ってたけど、三つ目で奥義を教わるのなら最後の段階は何なのさ?」
「それを今から説明するところよ」
奥義を含めた全ての技を修得したと認められた門下生は玄武衆を名乗る事を許されるが、当然ながら修行が終わった訳では無い。
奥義修得はゴールではなく、むしろそこからが新たな修行の始まりであるとしており、各々が師から離れて独自の修行をしていく事になる。
基礎を初めから練り直す者。工夫を凝らし新たなる技を開発する者。三池流を想定敵とし三池流打倒を志す者。それそれが高みを目指して邁進していくのだ。
「つまり一生修行が終わらないって事?」
「当たり前だろ。俺だってまだまだ修行が足りねェと思っているし、おシンだって顔を合わすたびに強くなっている。バアさんも魔法の鍛錬と研究を続けているのはお前も知っているはずだ。親父とお袋なんか今では『魔王禍』の頃の
また玄武衆ともなれば師範となり後進の指導を義務付けられる。
月弥とて青龍衆以下の修行時代は玄武衆から可愛がられたものである。
彼らの課す修行が如何に厳しく理不尽に思えても宗家が“効果あり”認めれば、たとえ三池家の子弟であろうとも服従しなければならない。
我の強い月弥ですら、自室で悔し涙を流し枕を叩いたのは一度や二度ではない。
「忘れもしねェよ。鉄を斬れるようになって、“『
初めはアクリルの盾に弾き返され、その様を嗤われた。
半年後、強化アクリルの盾を斬れても防刃ジャケットに阻まれる。
二年かけて漸くジャケットを斬り裂くも中に詰まった粘土と孟宗竹が刃を止めた。
更に一年、孟宗竹ごと人形を両断出来るようになったが、“まずまず”と頭を撫でられただけで終わったのだ。
「今にして思えば当然だった。当時の俺が全力で振って漸く八割の確率で成功させていたのに対して、玄武衆は一番弱い若輩者でも三割の力で『月輪斬り』が出来たンだからよ」
今では伝統となり、『月輪斬り』を修得した者に対する試金石として『アラミド斬り・月輪許し』の名で青龍衆から恐れられているそうな。
「ある意味、
「当たり前だろ。東雲流剣士を
月弥はレヒトの目の前でパンと手を叩く。
その拍子にレヒトの体が動くようになった。
必死に体を動かそうとしていたところに、いきなり動けるようになった為か、バランスを崩して月弥に向かって倒れ込む。
「ぐえっ?!」
「大丈夫か? おシン、いくら観察したいからって『不動金縛りの術』を遣う莫迦がいるか。ガタイは良くても相手は十二の餓鬼だぞ」
「すいやせんね。どうせ怯えられるなら動かなくした方が良いと思いやして」
「いやいや、いやいや。倒れてきた子の喉をクロスチョップで受け止めるミーケも大概だからね?! 普通に受け止めてあげなよ」
「いや、俺とレヒトの体格差で普通に受け止めたら、おっぱいを掴むか、おっぱいに顔をうずめていたからな。ラノベじゃねェンだから、ラッキースケベは御免蒙るよ」
「またそういう事を」
実際、そうなってもレヒトは怒らなかったが、月弥が心配しているのは、それを聞きつけたクシモやフランメが“十二歳の娘を受け止めたのなら我らも受け止めろ”と訳の分からない理屈で迫ってくる事である。
「ちなみに
「流石はおシン、仕事が早いな」
「やつがれに出来る事はここまででさぁ。後は
「おうよ。任せろや」
月弥はそう請け負うと、咳き込んでいるレヒトの背中をさすってやるのだった。
それをおシンはじっと見ている。
クーアは何故かおシンを放っておけない気持ちにさせられたものだ。
「ええと、おシンさんだったっけ? どうしたの?」
「いえね、やつがれもそろそろ弟子を取った方が良いのかと思いやしてね。霞流を後世に遺すのが師匠との約束でしたから。つくづく師匠が幽霊だったのが惜しまれやす。子供がいれば後継者に悩む事は無かったでしょうしね」
寂しげに笑うおシンを見て、クーアは人間らしい表情も出来るのだなと思った。
「今度、魔女の谷に遊びに来てよ。兄弟の中には魔法が遣えない子もいるし、僕も接近戦が出来ないって欠点を指摘されたばかりでさ。剣を教えてくれると嬉しいかな」
おシンは虚を衝かれたのか、目を丸くした。
それも一瞬の事で小悪党のようにニンマリと笑うやクーアの頭を撫でた。
「貴方様は高貴な御人と偉大な魔女の血を引く御方だ。やつがれのような小悪党と付き合っちゃあいけやせんよ。まあ、跡継ぎはこれからゆっくり考えやすから心配はいりやせんや。でも、御気持ちは嬉しかったでやすよ。ありがとう御座ンす」
おシンがクーアから離れると既に小袖を身に纏っていた。
「今後、御困りの事があったらいつでもやつがれを訪ねてきて下せぇ。やつがれに出来る事なら何でもお引き受け致しやしょう」
シャラン。
さっきと同じ音がして、何の音かとクーアが視線を巡らせて、再びおシンのいた所を見ると、既に彼の姿は無かった。
「何だ。おシンのヤツ、もう帰ったのか?」
「そうみたい」
夢でも見ていたような心持ちでクーアは答えた。
「あっ」
「ど、どうしたの? いきなり変な声を出して」
「やられたな」
月弥が指を差した先はクーアの胸元である。
見れば赤い点があった。
「血?!」
「お前、おシンに何か云ったか? アイツが印をつけるなんてよっぽどだぞ」
「印って、コレをつけられるとどうなるの?」
月弥は盛大に溜め息を吐いた。
「お前はおシンに魅入られたンだ。その印をつけられたが最後、どこにいようが、何をしようがお前はおシンから逃げられねェ。世界の反対側に居たとしても一瞬にしてお前の前におシンが現れるようになったのさ」
「ふぅん」
「ふぅんて、お前」
「確かに呪詛を感じるけど、不思議と嫌な感じはしないかな。おシンさんとは少しだけ話したけど悪い人って感じはしなかったしね」
再び胸元を見るが既に印は消えていた。
「お前が気にしてないなら良い。だが何かあったらすぐに云えよ? アイツを信じて懐に入れたのはこの俺だ。責任は俺にある。俺も無いと思っているが、万が一、おシンがお前に何かをしようとした場合、俺はアイツと刺し違えてでもクーアを
「分かったよ」
流石にクーアもおシンを信じきる覚悟が有るとは云えなかった。
口にするには“覚悟”という言葉は重すぎるのだ。
「お前はお前でおシンを信じていれば良い。俺には見えてないおシンをお前には見えているのかも知れない。目を見れば分かる。今日だけでお前が随分と成長した事がな。ならお前が信じているおシンを俺もまた信じるのみだ。お前の覚悟はちゃんと伝わっているよ」
「うん、ありがとう」
月弥ははにかむクーアの頭にポンポンと手を乗せた。
そしてレヒトにも向き直る。
「勿論、お前も三池流で大成すると信じている。だからそんな寂しそうな顔をするな。ちょっとクーアと大事な話をしていただけで、お前を蔑ろにしていたワケじゃねェンだからよ」
「はい…あ、いえ、俺ってそんな寂しそうな顔をしてましたか?!」
「まあ、これでも何人も子供達を見てきたからな。だが、安心しろ。俺は弟子も友達も一人たりとてぞんざいに扱わん。修行の厳しさにお前が逃げ出したとしても地の果てまで追いかけて一人前にしてやるよ」
「お、御手柔かにお願いします」
「いや、お前がここでしてきた悪さの分、仕付けてやるから覚悟しやがれよ?」
「は、はい」
最初の頃と比べて随分と素直になったレヒトの反応に月弥は思わず噴き出した。
「冗談だ。新弟子に無茶をさせるほど俺も莫迦じゃないさ。ちゃんとお前の成長に合わせた修行をつけてやるから安心しろ。もっとも気を抜けば怪我だけじゃ済まないから稽古中は厳しくやらせてもらうがな」
「はい、宜しくお願いします」
「じゃあ、そろそろ上がるか。あまり遅いとお茶するどころか晩飯の時間になっちまう。カステラを食い損ねたら、それこそ子供達の怒りは計り知れん。食い物の怨みはオソロシイというからな」
月弥の言葉に二人は頷いた。
だが月弥は知らなかったのだ。風呂でのお喋りが想像以上に長くなっていて、恐れていた通りにカステラが御預けになってしまった事を。
そして子供達の機嫌を直す為にクーアやレヒトと共にシスター服を始め、様々な女装ファッションショーをやらされるなど想像していなかったのであった。
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