第拾章 魔女の子と孤児院の子達

 リビングで二人の男が云い争っている。

 一人は若い男、もう一人は父親と思しき壮年の男だ。


「何で認めてくれないんだ?!」


「認める、認めないではない。お前には務まらないと云っているんだ」


「何でだ?! 俺は直接スカウトされたんだぞ!」


「だからと云って親に相談もせずに契約する莫迦がいるか! どうせ三つの願いに目が眩んでの事だろう!!」


 父親の言葉に一瞬言葉を失うが、すぐに父親をきっと睨むと部屋から出て行く。


「もういい!!」


「待て! 話はまだ終わってない! 兎に角、許さんぞ!」


 自室の机で頭を抱えている若者にそっと近づき肩に手を乗せる人物がいた。

 若者の母親である。


「母さん……父さんはどうして認めてくれないんだ」


「お父さんは貴方の事が心配なのよ。今までずっと一緒に暮らしていた子供にいきなり“魔界に行く”と云われたら誰だって心配するに決まっているわ」


「けど俺だってもう二十歳を過ぎてるんだ。いつまでも親の脛を齧っていられない」


「そうね。少し寂しいけど立派に巣立つまで成長してくれてお母さんも嬉しいわ」


 寂しげに微笑みながら母親は若者の前に封筒を差し出す。


「何だよ、これ?」


「貴方と喧嘩してからお父さんも何日か悩んでいたけど、“アイツが決意したことなら”と云って取り寄せてくれたのよ。いくら魔王の加護を得られると云ってもフェアラートリッターが危険な仕事なのは変わりはないから、せめてこれくらいは入っておいてちょうだい。その方がお父さんも少しは安心してくれると思うわよ」


「親父……」


 封筒には『魔界共済』と書かれていた。

 次の瞬間、美しい女性のソプラノが響き渡る。


「ま~かいきょお~さい~~~~~~~♪」


 更に落ち着いた優しげな男性の声が続く。


「魔界は二〇××年日本冬季オリンピック・パラリンピックを応援しています」









「まあまあの出来だな」


「何これ?」


 CMだよ、と云って教皇ミーケはパソコンからブルーレイディスクを取り出した。


「フェアラートリッター向けに共済組合を立ち上げてな。フェアラートリッターの契約促進も兼ねたコマーシャルを作ったンだよ」


 そして完成したばかりの映像をチェックしていたのである。


「母様も云っていたけど、どこまで商売を広げるつもりなのさ? しかも立ち上げたばかりと云ったくせに、しっかりオリンピックのスポンサーになってるし」


「金はあるからな。蒔ける時は蒔くよ。そうすりゃ世の中の経済も少しは回っていくってもんさね」


「羨ましい限りだね」


 慈母豊穣会の人気の要因は現世利益に限らない。

 信徒からお布施を頂かないのも庶民の財布に優しい宗教として信者を増やしいる。

 元々総合商社として成功しているので、どこぞの宗教のように搾取する必要が無いのだ。精々が食事系や創作体験系イベントを開いた時に志程度の参加料を募るくらいである。


「で? お前は何でここにいんだよ?」


「固い事云わないでよ。ここは居心地が良いんだ。それに毎日毎日、魔女の谷に引き籠もっていたら気が滅入るからね」


 ミーケがじと目で見る先には白いローブを身に纏った子供がいた。

 爽やかな緑の髪が風に揺れる様はさながら若草の生い茂る草原のようである。

 この少女と見紛う可愛らしい顔を生意気そうに澄ましている少年こそ魔女のユームの子であり、聖都スチューデリアの内務大臣であるオアーセ=ツァールトハイト公爵の落とし胤である。名をクーアといい、今年で八歳だそうだ。


「俺には飯をたかりに来てるようにしか思えねぇけどな。バアさん家、調味料が塩しか無ェから分からんでもねぇが」


向こう・・・とこっちじゃ砂糖の値段が全然違うから仕方ないよ。胡椒とか香辛料に至っては同量の金と交換出来るくらいなんだから」


「だから調味料くれぇ送ってやるっつってンのに聞きやしねぇ」


「母様が云うには、“砂糖や胡椒とかの高級品に舌が慣れてしまったら独立した時に苦労するに決まっている”だってさ。まあ、分かるよ。ツァールトハイト家ですら胡椒なんて滅多に手に入らないのだからね」


 面倒臭ェな――教皇はぼやきながら小鍋から煮えた白菜を摘まんで口に放る。

 クーアの目の前ではハンバーグが鉄板皿の上でジュウジュウと音を立てているの対して、ミーケの前には小さな鍋と一膳の茶碗飯があるだけだ。

 小鍋だてといって浅い小鍋に出汁だしを張り、好きな物を煮て食うのだ。

 その日は一晩かけて戻した貝柱を煮ながらほぐし、ざく切りにした白菜を少しずつ食べる趣向のようである。味付けは塩と酒のみだ。それ以上は貝柱の良い出汁が台無しになってしまう。

 元々小食である彼はこれだけ食べればすぐに満腹になってしまうのだという。

 足りない栄養はサプリメントで補っているが、やはり栄養は食事で摂って欲しいと周囲は願っているようである。

 一時期は少ない食事を五回に分けて取る食事療法も行っていたようだが、質の良いサプリメントが出回るようになってきた事と何より本人が段々面倒臭くなってきてしまったので現在のような習慣が出来上がってしまったのだ。


「ま、子供ガキがやるもんじゃねぇよ。肉喰え肉。で、さっさとデカくなれ」


 教皇は幼い魔法遣いの頭をわしわしと乱暴に撫でて笑ったものだ。

 クーアは内心、“自分も子供のクセに”と唇を尖らせた。


「で、結局何の用だよ? 俺は午後から予定があるからあんまり構えンぞ」


 食後、エナジードリンクを飲みながらクーアに問う。


「予定って何さ? この前だってそう云ってどっか行っちゃうし。秘書って人に聞いても、教皇さまのプライベートの事なので答えられないって云われたんだよ?」


「実際、お前には関係無い話だからな。それより用件を云え」


「新しい魔法を開発したから見て欲しいんだ。今度こそミーケを驚かせてみせるよ」


 挑戦的な笑みを浮かべるクーアに対してミーケはあからさま呆れて見せた。

 クーアの口から出る言葉は決まって“新しい魔法を見ろ”だからである。


「お前よォ。いつも云ってるだろ? 新しい魔法を開発するのは結構な事だが基本も大切にしろってよォ。基本を疎かにしていたら折角の新魔法も威力や精度が落ちちまうって耳にタコができるくれぇ何度も云い聞かせてると思うンだがなァ」


 子供が相手ゆえに三白眼になって凄むことはないが、それでもミーケのじと目は幼いクーアをたじろがせるには十分だった。右目のアイパッチも迫力を増している事だろう。


「せめてこれくらい出来るようになってから新魔法の研究をしやがれ」


 クーアの目の前に差し出された掌の上に水でできた小さなリングが現れ、複数の小型の火球が輪を為して並んでクルクルと水のリングを何度も、しかも高速で潜り抜けていく。


「そんな小手先の芸なんか出来たって意味無いよ。僕はもっと強力な魔法を遣えるようになって魔女の一族を莫迦にしてくる連中を驚かせてやりたいんだ」


 ミーケが操る魔法の精度に感心しながらもクーアはなおも主張を曲げなかった。

 小手先の芸と云われてミーケのこめかみにある血管がぴくりと脈打つ。


「ふぅん。俺は精密な魔法の制御を身に着けろって云ったつもりだったンだが、そこまで云うンなら仕方ねぇ。ちょっと付き合え」


 ミーケは手早くカジュアルな服に着替えると、クーアの首根っ子を掴んで自室から出て行くのだった。


「ちょっと?! 痛い痛い!」


 絶妙に首の経穴を押さえられる激痛にクーアは涙を流した。









「やあ、ツキヤ、いらっしゃい」


「よォ、来たぜ。元気そうで何よりだ」


 三池月弥は出迎えてくれた青い髪の少年に手を挙げてにこやかに笑う。

 僕と対応が違うじゃないか、とクーアは不満げだが月弥は意に介さない。


「その子は初めて見るね? ツキヤの友達かい?」


「いや、知人のせがれだ」


 ここは、“そうだ”と返すところだろとも思ったが、やはり月弥は知らん振りだ。


「聞き分けのねぇクソガキにお灸を据えてやろうと思ってな。ほら、入ったばっかりの利かん気な餓鬼がいるって云ってたろ? ついでにそいつにも“悪さが過ぎれば拳固を喰らう事になる”って教育してやるのさ」


「乱暴は良くないけど、ツキヤのする事なら大丈夫かな。でも、あまり過激なのはダメだからね?」


「大丈夫だって。信用してくれ」


 カラカラ笑う月弥にクーアは今更ながら悪い予感を覚えた。


「じゃあ、みんなを呼んでくるよ」


「あっと、その前に、これを後でみんなと食べてくれ」


 月弥のそばに闇の渦が現れ、それに手を突っ込むと、紙袋が出てきた。


「この前、好評だったカステラだ。後で家の畑で取れた野菜も厨房に置いておくからな。沢山食べてくれ」


「あはは、ありがとう。ツキヤの野菜は美味しいからね。みんな喜ぶよ。カステラも嬉しい。後でみんなと一緒に食べよう」


 月弥と青い髪の少年は朗らかに笑い合う。

 クーアはそんな二人を何となくつまらなそうに見詰めていた。









 現在、クーアはもう使われなくなった採石場にて月弥と対峙していた。

 勿論、土地の所有者には許可を取ってある。というより、天涯孤独な地主はある事件により十数年前から月弥に貰った金で介護付き高級老人施設に入所しており、使い道の無い採石場跡で良ければ好きに使ってくれと托しているのだ。

 それ以降、月弥は採石場跡を演習の場として利用している。


「じゃ、おっ始めるか」


 月弥は軽いストレッチ運動をしながら云った。


「ツキヤ、苛めるのはダメだからね?」


「分かってるっての。少なくとも血を見る事はしねぇと約束するよ」


 クーアは先程から月弥と親しげにしている青い髪の少年を見る。

 聞けば数ヶ月前に知り合ったばかりだそうで、彼を中心に集まっている子供達と共に共同生活をしている孤児だという。

 どんな出会いだったのかは教えてくれなかったが、まさか半年足らずで親友と呼べるまでに仲良くなっているとは想像すらしていなかった。

 自分はもう八年も付き合っているのに未だ親戚の子扱いだというのに。

 改めて見るが、どこをどの角度から見ても平凡と云うよりない。

 鮮やかなライトブルーの髪こそ目を引くが、目鼻立ちは凡庸というよりなく、肌は子供らしく日に焼けている。ただ九歳という年齢にしては、その穏やかな微笑みは不自然なまでに大人びているように思えた。ミーケに“転生者では?”と進言してみたが“集団生活で兄役を任されていれば誰だってそうなる”と取り合ってくれなかった。


「仮に転生者だとして、だから何だ? 何一つ悪い事をせず懸命に生きる善良な男だ。嫌う理由も攻撃する理由も無ェよ。俺の敵は神から貰ったチート能力を使って得手勝手に生きるクソな連中だよ」


 そう云って呆れとも軽蔑とも取れる目でじろりと睨まれる始末であった。

 ミーケに取ってあのムーティヒという少年は余程大切な存在となっているらしい。


「ねえ、ツキヤちゃん? 決闘をするってムーティヒお兄ちゃんから聞いたんだけど、相手の子って女の子だよね? 女の子を殴っちゃうの?」


 七歳くらいの女の子が問うと、月弥は爆笑した。


「まあ、ぱっと見、女の子に見えねぇ事もねぇが、ちゃんと男だよ。嘘だと思うなら今から裸に剥いて見せてやろうか?」


「じょ、冗談じゃないよ?!」


 クーアが自分の身を守るように体を掻き抱くと、月弥は“マジになるな”と冷めた目をして手を振った。


「ねぇ、さっきから僕の扱いが悪くない? しかも聞いていれば、この子達みんな、ミーケの事をツキヤって呼んでるし、何で僕だけミーケ呼びなのさ?」


「良い子とクソガキじゃ扱いに差が出るのは当然だろうが?」


 月弥を困らせている自覚があるのか、クーアは呻いた。


「あと、テメェが勝手にミーケをファーストネームと勘違いしただけだろ。まあ、分かってて訂正しなかったンだが、お袋が三池姓を名乗ってる時点で察せられなかったお前が悪い」


「うっ……じゃあ、僕もツキヤって呼んでも良いの?」


 クーアが上目遣いに訊く。

 月弥は肯定しようとするが、ふと何かを思いついたように云い変えた。


「別に禁じちゃあ……いや、そうさなァ。よし、こうしよう。今からやる演習で俺を満足させられたら好きに呼んで構わねぇぜ」


「分かった。もし、満足させられなかったら?」


「そのままミーケ、いや、ミーケさんと呼べ。黙って聞いてりゃ友達でもねェのに何、呼び捨てにし腐ってンだ。確かにお前よりチビだが目上だぞ、コラ。あと、万が一にもバアさんの名を落とすような不甲斐無ェ結果を出してみやがれ? 実家の道場で一ヶ月内弟子体験させてやっからな? 元プロレスラーが泣いて夜逃げする地獄を味わわせてやる」


 実際には夜逃げした弟子は一人もいないのだが、普段の言動から鵜呑みにしてしまい、クーアは顔を青ざめさせた。


「それとそこの新入り!! 名はええと……レヒトだったか?」


「な、なんだよ?!」


 いきなり名指しされて利かん気そうな赤い髪の少年の体がビクリと震えた。


「親に虐待された過去には同情するが、だからといって、それが免罪符になるワケじゃねぇぞ。我を張るなとは云わん。だが同じ施設の仲間を傷つける事は許さねェ」


「お、大きなお世話だ! 俺は誰の世話にはならねぇって決めたんだ!」


「それが力の弱いヤツから飯を奪う事だってのか? 自分に割り当てられた仕事を押し付ける事なのか? 孤児院で衣食住の世話になっておいてお山の大将を気取るのは情けないにも程があるだろ」


「うるせぇ、あのクソ親だって云ってたぞ。“弱いヤツが悪い”ってな。だから俺もそうするんだ! 弱いヤツは俺の云う事を聞いてりゃ良いんだよ!」


 レヒトの幼くも歪んだ主張に月弥は頭をばりばりと掻いた。


「いいか、良く聞け。ここにいるクーアはまさに魔法の申し子というべき天才だ。僅か三歳で魔法の理論を理解し、五歳で上位精霊の方から契約してくれと懇願されるまでに至った精霊達の寵児よ」


 突然の賛辞にクーアは一瞬目を白黒させたが、すぐに胸を張った。


「だが、それ故に増長しやすいところもあってな。修得している魔法の数は俺のソレを軽く陵駕しているし、新しい魔法を開発する知恵もあるンだが基礎を疎かにする悪癖があるンだ。そのせいで完成度が今一つでな。いつもそのことを注意するンだが馬耳東風ってヤツさ」


 横目で睨まれてクーアの胸が痛んだが、それでも基礎鍛錬よりも強力な魔法の開発を優先することはやめられない。魔女である母様、そしてその血を引く兄弟達、家族を莫迦にしてくる奴らを見返してやるんだ。

 初めは魔女の一族を人間に認めさせる事を望んでいたが、いつしか人間への意趣返しへとすり替わってしまっている事にクーアは気付いていない。或いは気付いていない振りをしているのかも知れぬ。


「で、一番の問題点は天才だからこそ力を持たぬ者達の気持ちを汲めねぇって事よ。つまりはお前と同じって事さね。事実、クーアは弱者を見下す悪癖があるしな」


「何が云いたいんだよ?」


「力で人を屈服させようとする者は結局、更に力の強い者に屈服させられるって事をお前に教育してやろう。そういう趣向だ。勿論、お前を直接しばき倒すワケじゃねぇ。これから行う演習を見て学んで欲しいのさ。まあ、感じ方は人それぞれだ。お前に影響を与えるのか、或いは何も感じないのか、それはお前次第ってヤツだ」


「俺は考えを変える気は無いぞ」


「まあ、面白い見世物が始まると思って気軽に見てくれ。演習とは云え、真剣ガチでいくのは久しぶりなんでな、つまらねぇ戦いにはしねぇつもりだよ」


 月弥の細められた目にレヒトは何かを感じたのか、顔から血の気が引いた。

 そして月弥はクーアへと向き直る。


「悪いな。ちと待たせちまったか?」


「い、いや、僕の方も精神を集中する時間が取れたから」


「そうかそうか、ならお互い遠慮はいらねぇって事で」


 月弥の笑みが益々強くなる。

 全てを吸い込みそうな闇色の瞳に一瞬呑まれそうになるがかぶりを振って意識を保つ。


「いざァッ!!」


 月弥の裂帛の気合に負けじとクーアも声を張る。


「尋常に!!」


「「勝負!!」」


 突如、目の前が暗くなる。

 次の瞬間、額に衝撃が走り、頭が破裂したかのような激痛がした。


「あれ?」


 眩しい。

 何で僕は太陽を見上げているんだ?

 そして漸く理解する。自分が倒れている事に。


「取りあえず加減は出来たか。流血沙汰にしないって約束だからな」


「な、何をしたんだ、お前?!」


 狼狽するレヒトの声が聞こえる。

 起き上がろうにも体が動かない。


「何だ、見えなかったのか? 随分と加減をしたンだがなァ」


 あれ? 手足が痺れてる?


「え? あれ、おしっこ?」


 名前は知らないけど、女の子の言葉に自分が失禁していることに漸く気付いた。


「おい、クーア。テメェ、いつまで寝てンだ? まだ小手調べもしてねぇぞ」


「なあ、本当にアイツに何をしたんだよ、お前?!」


「何って本当に見えなかったのか?」


「うん、そのクーア君だっけ? 彼に何をしたんだい?」


「いや、クーアの額に膝を叩き込ンだだけだぜ?」


 事も無げに云う月弥にクーアは愕然とする。

 全く見えなかった。いきなり暗くなったと思った時には額に衝撃が来たのだ。


「とっとと起きろ。このままだとマジで道場で扱くぞ、おい。次は先手を取らせてやるから、さっさとかかって来い。態々骨が厚い額を狙ってやったんだ。ダメージは少ねぇはずだぜ」


 これが、『一頭九尾ナインテール』全員からの寵愛を受けている男の実力。

 魔法遣いにカテゴライズされていながら、武も並の武術家の比ではない。

 正直怖くて堪らない。このまま寝てしまいたい。

 彼我の実力差は歴然だ。とてもでは無いが僕には勝ち目はないだろう。

 でも、だからこそあの魔法・・・・を試す事が出来る。

 クーアは治療魔法を自分にかけながら起き上がる。


「行きます!!」


 先手をくれるというのなら遠慮無く貰おう。

 クーアは魔女が箒で空を飛ぶ魔法を応用して宙に浮かんだ。

 彼も男である。このまま無様に負けるくらいなら試せるだけ試す気概があった。

 一瞬で終わったと思われた勝負であったが、まだ終わりそうにない。


「来いや。面白い勝負が出来たら、おシンに頼ンで小便漏らした記憶を子供達こいつらから消してやるからよ」


 月弥はクーアが放とうとしている魔法に期待して壮絶とも云える笑みを浮かべた。

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