第192話「差し入れ」

 放課後、蛍とふたりで図書館の勉強コーナーに足を運ぶと、席が半分近くすでに埋まっていた。


「同じことを考えた人たちがいるんだな」


「そうですね」


 蛍とふたり小声と微笑をかわし、ちょうどあいていた四人掛けの机の隣同士に腰を下ろす。


「隣でいいのか?」


「対面だと教えにくいですよ」


 念のため確認したら彼女に笑われてしまった。


「そうだよな」


 ボケがすべった顔をしながら勉強にとりかかる。


 基礎教養、語学はまだいけるし、魔法理論、錬金学は何とかなるかもしれないが、ほかはどうだろうか?


「……なるほど。勉強をあと回しにしていただけで、まったくダメというわけではなさそうですね」


 というのが蛍が出した結論らしい。


 彼女がそばにいるとさわやかないい香りがするものの、理性と危機感がさすがに勝って集中できた。


「休憩しましょう」


 と蛍に言われたのでほっと息を吐く。


「エースケ殿はやはりやる気を出せばすごいですね」


 と笑顔で褒められる。


「蛍が褒め上手だからだろう」


 彼女が何かにつけて褒めてくれたおかげで、集中力が低下しなかったのだ。


「どうも」


 と蛍は受け入れる。

 謙遜の頻度が減って来たのはいい傾向だと思う。


「勉強がんばってるの? それに相変わらず仲いいね」


 ちょうどそこへ俺たちの前に立ち、小声で話しかけてきたのはリプレ先輩だった。


「先輩も勉強ですか?」


「ええ。実技に不安がある分、筆記でカバーしないとね」


 てへっと舌を出す様はあざとくて可愛かったが、先輩の場合は天然だろう。


「いっしょにやりますか?」


 流れ的に何となく聞かない方が失礼な気がしたので、礼儀上の質問を放つ。

 

「やめとく」


 意味ありげに先輩が蛍を見て、俺たちの前にくるみみたいな種実類を机の上に四個ほど置く。


「がんばってる後輩にあたしからの差し入れ」


「何ですかこれ?」


 差し入れという単語と種実類が結びつかず、リプレ先輩にたずねる。


「あ、一年はまだ知らないか。これは『コーララナッツ』だよ。疲労回復や徹夜したいときにおススメ」


 コーララナッツ?

 そういや勉強をがんばる生徒がナッツを食べるシーンがあった気がする。


 聞いてる感じカフェインの効果っぽいし、もしかしてこれは地球で言う「コーラナッツ」なのかも?


「シジマくんならひょっとしてと思ってたけど、さすがに行ったことなかったんだね」


「……どこかで採れるものなんですね」


 先輩の言い回しからそこまでは察することができた。


「ええ。試験が終わったら探してみるのもいいんじゃない?」


「そうですね。せっかくだからいただきます」


 と言うと先輩は目の前で割ってくれた。

 女子の力でも簡単に割れるものらしい。


「殻の味はかなり人を選ぶと思う」


 なんて言いながら俺に手渡す。

 直後、蛍が危なげなく自分で割った。


 俺のほうが割るのが下手だと判断したのだとしたら、たぶん正しい。

 

「ありがとうございます」


 食べてみたところ俺が知ってるナッツ類に食感はそっくりだった。

 

「これを食べ過ぎたら夜に眠れなくなったりするから気をつけて」


 と忠告を残してリプレ先輩は移動する。

 

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脇役に転生したのでゲーム知識を活かしてたら、勇者に頼られる伝説の錬金術師になってた 相野仁 @AINO-JIN

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