第191話「定期試験を忘れていた」

 今日の授業に戦闘はない。

 

「そろそろ定期試験だからな。お前ら覚悟しておけよ」


 退屈だなと思っていたら、まるで思考を読んだみたいに数学の教師に冷や水を浴びせられた。

 

 すっかり忘れていたな。

 試験はたしか実技と筆記のふたつだったっけ。


 実技はいつものメンバーと組めばクリアできるだろうけど、筆記は個人戦なんだよなぁ。


「というわけでやばいかもしれない」


 と俺は昼休み、いつものメンバーに打ち明ける。


「たしかにエースケがまじめに勉強してるところ、見た記憶がないね」


 アインは苦笑した。


「エースケ殿は小さな努力を積み上げることを厭わない印象でしたが」


 蛍は意外だと目を丸くしている。


「へー。何でもしっかり計画立ててやるタイプだと思ってた」


 とウルスラは驚いたと言うより、仲間を見つけた悪ガキみたいな表情だ。

 

「みんなはどんな感じだ?」


 俺は今後の予定のために質問する。


「それがしは特に不安を感じてません。ひと桁順位を狙いたいです」


 蛍は予想通り優等生な答え。

 ゲームでも成績がいいという設定だった。

 

「僕も平均はとれると思うよ。それより上がしんどいけどね」


 アインは無難な答え。


「ボク? 20番には入りたいかなー」


 ウルスラはさらっと優秀な答え。


「そうなんだ……」


 アインは驚きを隠せてないけど、ゲームの知識がなければ俺も彼と同じ反応をしていただろう。

 

 蛍も驚いていないのは知るきっかけがあったのかな。


「やばいのは俺だけか。頼りになるのが三人もいる?」


 と三人に言ってみる。


「この展開は正直予想してなかったな。やべーのがいるとしたらアインだと思ってた」


「それがしもウルスラと同じ意見です」


 ウルスラと蛍がそんなことを言う。


「ふたりともひどくない?」


 女子たちにアインは小声で嘆く。

 ふたりに抗議する勇気は出なかったらしい。

 

「俺はアインなら平気だと信じてたぞ」


 ゲームで赤点とる主人公はいなかっただけというオチである。

 棒読みにならないに気をつけてたら、アインがうれしそうに笑う。


「エースケ。やっぱり君は友だちだよ」


「ちょっとちょろくないか?」


 少しだけ不安になってしまった。


「エースケの操縦能力が上手いだけじゃね? 知らんけど」


 とウルスラは笑う。

 

「いずれにせよ、エースケ殿が不安なら微力ながらお手伝いいたします」

 

 蛍が真剣な表情で申し出てくれる。

 

「ありがとう。よろしく頼む」


 彼女から期待通りの言葉が出て、ホッとしながらお礼を言う。

 

「よかったらボクも手伝おうか? エースケには世話になってるから、タダでいいよ」


 とウルスラも言ってきた。


 こっちのほうは完全に予想していなかったけど、蛍の表情が一瞬だけくもったのには気づく。


「じゃあウルスラの得意科目はお願いして、他は蛍に頼もうかな」


「そっちだと蛍も楽できるよな」


 俺の言葉にウルスラが応じるけど、彼女はまだ蛍の性格を把握しきれてないな。


「蛍は気にしないだろうけど、俺が申し訳ないからね」


「なるほど」


 蛍は楽したいなんて考えとは無縁の性格だ、とウルスラはようやく思い当たったようだ。


「そういうことであれば」


 蛍も納得したようである。 


「僕もエースケと勉強したかったけど、仕方ないね」


 とアインが諦めた顔で言う。


「うん、またの機会にな」


 と俺は断わりを入れた。

 

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