第188話「好きな女子はいるか?」

「アインは何が好きなんだ?」


「モンブラン」


 即答された内容が意外で驚く。

 ゲームでは主人公の好みはプレイヤーが決められるので、予想できなかったのだ。


「そういうエースケは?」


「レアチーズかな」


 原作通り再現されていて、日本で食べられた美味いものが食べられるのはありがたい。


 材料や製法はどうなってるんだ? と疑問に思ったら負けなんだろう、たぶん。


「へー」


 共感で盛り上がる女子たちと違い、俺たちは淡々と食らう。

 飲み物でつけた紅茶は無難な味だった。

 

「こうしてエースケと過ごすのは珍しい。というか初めてかな?」


「だろうな」


 アインの疑問を肯定する。

 強くなって成長していくことしか考えていなかったのだから当たり前だろう。


 いまにして思えば、親睦を深めようとしていなかったのに、よく仲間たち三人はついてきてくれたよな。


「すこし反省した」


「……まあ、反省はいいことだよ」


 端的にぶっこんだのに、アインはしっかり察してくれたらしい。


「エースケは正直、生き急いでいる感じがかなりあったからね」


 と指摘された。

 やっぱりそうだったのか。


 自覚はなかったけど、少しだけ疑問を持つようになっていたのだ。


 どうせいつまでも平和は続かないのだから、せめていまはのんびりしておこう。

 ゲームじゃなくて現実なんだから、心身を休めるのも重要だ。


 いまのところはこわいくらいに順調だけど、油断はガルヴァをこのタイミングで捕縛した影響がいつ現れるのだろうか?


 気にならないと言えばウソになるので、結局あんまり休んでいられない気がする──すくなくとも頭は。


「俺は一流の錬金術師になりたくて必死だったからな」


 とごまかす。


「そう?」


 アインは一瞬怪訝な顔をしたけど、そのまま踏み込んでは来なかった。

 気配りのできるいいやつだと思う。


 こいつが大器晩成型じゃなければもっと俺だって楽できたんだけど、本人に責任はないからな。


「もっとみんなを巻き込むことに方針を変えようかな」


 ぼそっと言うとアインは苦笑する。


「そのほうがいいと思うんだけど、きみが言うとけっこう物騒にも聞こえるね」


 否定はしない。

 このあとはガルヴァの後ろにいる連中との戦いがはじまるだろうからだ。


 どのみちあいつら相手じゃ俺と蛍のふたりだけじゃ戦力は足りない。

 ……ダメだ、また考えが戦いの方向になってしまっている。


「ところでアイン、好きな女子っていないのか?」


「ふぁっ!?」


 無理やり話題を転換したら、アインはいきなりむせ込む。


「な、何を言い出すんだよ、いきなり」


「いや、戦いとは関係ないことを考えるなら女子だろう」


 動揺する彼に真顔で説明する。


 恋愛が絡むと脳がそっちに集中してしまい、シリアスどころじゃなくなるらしいという話は前世で聞いたことがあった。


「好きな子はいないのか?」


 あらためて聞き直すと、アインはこくりとうなずいた。


「ウルスラとはいい感じだと思ってたけど」

 

 何しろゲームのヒロインだし、男友だち感覚でつき合えるのでありがたい部分もある。


「彼女とは友だちだよ。それに彼女も僕のことを恋愛対象とは思ってないんじゃないかな」


 アインは本気で言ってるようだった。

 思ってたのと違うな。


 いやまあ、主人公がヒロインと恋愛しようとしまいと、そこまで大きな影響はないんだけど。


 男キャラクターたちと「俺たちずっと友だち」だよエンドもあるゲームだったからだ。(エースケとはないだけで)

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