第187話「男同士のつき合い」

「せっかくだしどこか遊びに行こうぜ。そして行き先はアインに任せる」


 と俺は提案しつつ投げた。


「いいけど、誘っておいて俺任せ?」


 とアインは笑う。


「うん。いつも俺が決めてたからな。たまにはアイン君に主導権を渡そう」


「何だそれ。いや、骨休めという意味ではありなのか……?」


 エースケに任せたらまた何かダンジョンに、と彼はぶつぶつ言っている。

 俺が主導すると偶然でも勘違いされそうだから、という点は正解だ。


「じゃあ何か売店に行って買い食いでもする?」


 と彼の提案にうなずく。


「いいぞ。ドーナツにするか、ケーキにするか、パフェかだな」


「く、詳しいね」


 アインは意外そうな顔をする。


「錬金術師として、一応はな」


 さりげなく俺はウソをついた。

 実際は原作で主人公と女子の日常イベントで、売店が登場する。


 食堂と売店で交流できるヒロインが違うのは、地味に面倒な点だった。

 

「そうか。物作りをする立場なら、自然と周囲の商品にも目がいくのか」


 アインは素直に感心している。

 まだまだ甘い部分が残ってるけど、俺に対する信頼もふくまれてそうだ。


「まあな。アインもウルスラのために目を配れよ」


「え、な、何でウルスラ限定なんだ?」


 アインは露骨に動揺して目を泳がす。

 こいつに腹芸はできそうにないな。


 むしろウルスラのほうが得意そうだ。

 ある意味いいバディになるのかも、とこっそり期待する。


 ケーキを売ってる店の前に行くと、蛍とウルスラとばったり出くわした。

 ふたりとも置かれた席に座ってケーキとおしゃべりを楽しんでいたらしい。


「おふたりともこちらにいらっしゃったのですか」


「あちゃー、こりゃボクの負けかな?」


 ウルスラは額に手を当てて悔しそうに宙をあおぐ。

 その様子から俺はピンときた。


「俺が懲りずにアインを誘ってダンジョンに行くか、賭けでもしていたのか?」


 実際にゲームでもウルスラは賭けを持ちかけたことが何度かある。


「ありゃ、バレた? 蛍の勝ちだよ。エースケは今日は何もしないって」


「エースケ殿の人となりは、それなりに把握したと自負しております」


 蛍はちょっと得意そうににこりと笑う。


「愛だね、愛」


 けっとウルスラがやさぐれモードで言い放つ。


「な、な、なっ」


 蛍は一瞬で真っ赤になって動揺しまくってる。


「友愛だな」


 すかさず俺が切り返す。


「つまんないの」


 ウルスラは舌打ちしてぶすっとする。


「ウルスラ殿」


 からかわれたと気づいたらしい蛍が、冷静さを取り戻して彼女をじろっとにらむ。


「やべっ」


 ウルスラはあわてたがもう遅い。

 蛍の説教がはじまってしまう。


「女子は女子会やってるみたいだから、ここは離れよう」


「そうだな」


 アインからは異論が出なかったので、助けを求めるウルスラの視線に気づかないふりをして距離をとる。

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