第186話「男同士の約束」
放課後、俺とアインはふたりで学園の外をぶらつく。
「いったい全体、どういう風の吹きまわしなんだい?」
近くに人がいなくなったタイミングを見計らったように、アインに問いかけられた。
「それはどういう意味だよ?」
冗談で言ってるわけじゃないことくらいわかったけど、それでも俺は苦笑いしか出てこない。
「だってエースケって無駄なことはしない主義だろう? だからいまの状況にも何らかの意味があるんだろうと思ってね」
アインは隠す気がなかったのか、ストレートに疑問をぶつけられる。
ここはウソをつかないほうがいいと予感が走った。
「そうだな。だけど、それは正しかったのかと疑問に思ったんだ」
「というと?」
アインはじーっと俺を観察するように見つめる。
「俺はみんなと強くなりたかった。やばそうな橋を渡っても、みんなの安全を確保したかった。でも、これって独り善がりだったかもしれない」
と俺は言って彼を見つめ返す。
「すくなくとも蛍は俺といっしょに危ない橋を渡りたがるし、お前とウルスラだって背中は任せろって言う性格だろ」
「……否定はしない」
若干の間が気になったけど、否定されないならべつにいいか。
「お前たちの気持ちを無視し続けて結果を出したとして、それは成功なんだろうか? 俺たちは仲間と胸を張れるんだろうか? そう思えない気がしてきたんだ」
俺の告白を黙って聞いていたアインは気まずそうに右頬をかく。
「え、今さら?」
「うん?」
何やら聞き捨てならないことを言われた気がした。
「いや、エースケなんだから、ようやく気づいてくれたのか」
アインはぶつぶつ言うと、視線をふたたび俺に合わせる。
「君の言葉通りだと、俺たちは君の荷物だね。ただ君に運んでもらうだけの存在にすぎないじゃないか。ウルスラだったら、ふざけんなと怒鳴りつけるだろう」
「ああ、目に浮かぶよ」
アインの言う通りなのだろうと納得した。
「蛍からはすでに抗議されたから、省略してもいいか?」
ちょっと笑みをこぼして言うと、彼も表情を崩す。
「いいだろう。俺たちしかここにはいないんだから」
「だよな」
男同士ならではのシンパシーというやつか。
……何か違う気もするけど、正確を期す意味はない。
「あと、ここだけの話だが、教官に注意されたしな。学園に目をつけられて、今後動きづらくなったら困るという理由もある」
ふたりしかいないので本音を明かす。
「それ、女子ふたりには言わないほうがよさそうだね」
アインは眉を動かして複雑そうな表情になる。
「もちろん黙っててくれ。男同士の約束だぞ?」
「了解」
アインはふっと笑う。
彼はきっと野暮なことはしないだろう。
「いまごろ蛍たちは女同士の話をしてるのかな」
と俺が言うと、
「女子同士の話って想像もつかないよ。エースケはわかる?」
とアインから聞かれた。
「わかるわけないよ。女心より難しいものはないと思うくらいだ」
俺は真顔で即答する。
「同感だなぁ。蛍さんは意外とわかりやすい部分もあると思うけど」
「えっ? どの辺が?」
アインが言うことが理解できなくて困惑した。
俺のことを信用してくれてるんだろうな、という点はさすがにわかるけど、ほかはどうだろう?
「さすがに彼女が気の毒だよ、エースケのそういうところ」
アインは本気で呆れたようだった。
げせぬ……。
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