第185話「どっちがマシだろうか」

 また危ない橋を渡ったと思われるのと、バカをやっていると思われるのと、果たしてどっちがマシだろうか?

 

 昼休みになったところでそんな考えがぼんやりと浮かんだ。

 究極の二択というのは、さすがに言いすぎだろうけど。

 

「エースケ殿、悩み事ですか?」

 

 と隣でご飯を食べている蛍に気遣われてしまう。


「うん。ちょっと先のことを考えてるんだよ」


 蛍はもちろん、アインたちにも隠し事をしないほうがいいと判断して、正直に打ち明ける。


「先のことねえ。エースケのことだから笑えねーけど、ちょっと先走りじゃね?」


 ウルスラは水を飲みながら言った。

 

「同感だよ。エースケのことは頼りにしてるけど、どれくらい先を見つめてるのか、ふしぎに思うよ」


 とアインがじっと俺を見つめる。

 ……蛍はもちろん、このふたりをごまかすのも大変そうだな。


「俺は自分が弱いと思っているし、足りないものだらけだから、必死になってるだけさ。蛍だって、風光一刀流を修めるのに必死だっただろう?」


「御意」


 狙い通り蛍は即答する。


「実はギュータス教官にもあせるなって言われたけど、俺にそんなつもりはないんだ。どうしたものだろう?」


 俺ひとりだと煮詰まってしまうからな。

 たまにはほかの人の意見を聞いて参考にしたり、脳を刺激してみたい。


「自覚してなかったのかよ……やばくね?」


 ウルスラは相当驚いたらしく、大きく目を見開いた。


「エースケ?」


 アインも困惑している。


「予想してはいましたが、深刻かもしれません」


 蛍は困った様子でお茶を飲もうとしていた手を止めた。

 アイン、ウルスラの視線が彼女に向かう。


「気づいてたのかよ?」

 

 とウルスラが聞く。


「確信していたわけではないですよ。していれば止めてました」


「そりゃそうだよな」


 蛍の返答に彼女は納得したようだった。


「蛍にまで止められるとなると、ちょっと休んだほうがいいのか」


 さすがに見直しの必要を感じる。


 「あせってる」と思われたままだと、これまでのような快い協力を得るのは難しくなりそうなので。


「適切な休養も立派なトレーニングの一環ですからね」


 と蛍は微笑む。

 うん、それには賛成だ。

 

 俺は体育会系の根性論とか大嫌いだから。

 根性がないやつが大成するのは難しいのでは? という点は否定しないけど。


 この世界はゲームじゃない。

 みんな感情があれば自分の意思がある。


 最善と思える選択肢をただ選び続けたとしても、ハッピーエンドになるとはかぎらない、というか期待しないほうがいい。


「たまにはアインとふたりでどっかに遊びに行こうかな」


「えっ」


 俺のつぶやきを聞いた三人は意表を突かれた顔で固まった。

 

「そんなに意外なのか」


 いや、自覚してないわけじゃないけど。


「い、いえ、相変わらず切り替えの早さですね。お見事です」


 蛍が咳ばらいをしてフォローをくれたが、さすがにこれは苦しい。

 

「アインはいやなのか?」


「いや、べつにそうじゃないけど」


 俺の質問にアインは言葉を濁して、なぜか蛍をちらっと見る。


「ゴリアテ殿とエースケ殿、男同士で遊びに行くのもよいのでは?」


 蛍はくすっと笑いながら彼に言った。

 そうだよね、蛍が反対するはずないよな。


 アインはいったい何を気にしたんだろう?


「こりゃあ、まだまだ苦労しそうだよな。あたしと遊びにでも行くか?」


 ウルスラはなぜか蛍に同情しながら、彼女の肩をぽんと叩く。


「いいですね。たまには女同士の交流も」


 蛍は快く引き受ける。

 そう言えば蛍って友だちいるのかな……気にしたことなかったけど。

 

 今さら聞けないから黙っておくか。


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脇役1巻重版御礼の連続更新です

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