三章

第181話「うわさの男」

 罰を終えて何食わぬ顔で学校に行くと、


「あの、シジマくんだよね?」


 知らない女子たちに話しかけられる。


「そうだけど……」


 一年生みたいなのでため口で答えた。


「事件を起こしてた悪い人を捕まえたんだって?」


 と聞かれて俺は硬直する。

 てっきりかん口令を敷かれていて、誰にも知られていないと思っていたからだ。


 どこから漏れたんだろう?


 女子たちの視線は確信を抱いたものだったので、言い逃れは無理だと判断する。


「うん、まあ……」


 認めると「きゃーっ」という黄色い声があがった。


「すごいわね!」


「素敵!」


「あ、ありがとう?」


 見知らぬ女子にいきなり褒められても、正直なところ困惑しかない。

 俺だけじゃなくて蛍もいたんだけど、どこかで情報がねじ曲がってしまったのか?

 

 手柄を独り占めしたくないので、


「俺ひとりの手柄じゃないんだよ」


 と訂正を試みる。


「謙虚だね♡ がんばって♡」


 語尾にハートマークついてそうなくらい甘い声をかけてくれる子もいる始末。


「あっ」


 急に気まずそうな表情になってそそくさと立ち去る。

 あれっと思ったら咳ばらいが聞こえて、蛍がいつの間にか近くまで来ていた。


「お楽しみのところ邪魔してしまいましたか?」


 いつもより声色も表情も冷たい。

 

「いいや? 助かったよ。知らない女子たちに話しかけられても平気なほど、コミュニケーションは得意じゃないんだ」


 と言うが、彼女の反応はよくなかった。


「そうでしたか? とてもそうは思えませんが」


 腕を組んで指をとんとんと叩く。

 珍しくイライラしているようだ。


 いったい何でこんな状況に──と思うのはさすがにちょっと白々しいだろうか。

 蛍がいまイラついてる理由の推測くらいはできる。


 問題があるとすれば理解していても、対処法がわからないということか。

 不機嫌な女子をなだめる経験なんて俺が持っているはずない。


 ……迷った結果、ストレートにぶつかってみようと思った。


「あの子たちよりも蛍のほうが美人だけどな」


「そんな浮ついた言葉ではごまかされませにょ?」


 真っ赤になったし、目をそらしてしまったし、思いっきり噛んでる。

 効果を実感できるほど動揺しまくっているが、俺だってめちゃくちゃ恥ずかしい。


 いきなり俺の周囲だけ真夏になったような気持ちで、手に汗をかいている。


「いろんな人に喜んでもらえるなら、俺たちがやったことは間違いじゃなかったかなと思えるんだよ」


「……それはそうですね」


 まじめな考えに蛍も表情を改めて答えてくれた。

 

「やり方に問題ないとは言えないけどね」


 と涼やかな声が割って入ってくる。


「シェラ先輩」


 見なくても発言者はわかった。


「なぜ罰を受けたのか考えてちょうだい」


 ジト目でにらむ。


「はい」


 俺はすぐに返事をする。


「素直ね。反省したの?」


 目を丸くされたのでうなずいた。


 たまたま上手くいったからよかったものの、敵の戦力がもっと充実していた場合、俺たちは返り討ちにされたかもしれない。


 危険な賭けだったのは事実だ。

 それにたぶん同じ手はもう使えない。


 ここで自分の正しさを主張して、シェラの好感度を下げるなんてバカバカしい。


「ならよし。……ちょっと意外だけど」


 シェラは怪訝そうにしたあと微笑む。


「エースケ殿でも反省はすると思いますが」


 遠慮がちに蛍が口を出す。


 かばってくれたのはありがたいんだけど、実際のところ反省したわけじゃないので、シェラのほうが正しい。


「みたいね」


 シェラは反論せずに受け入れる。


「でも、本当ならあなたがシジマ君の無茶を止める立場だと思うけど?」


 と思いきや別の角度からの切り返しを放つ。


「本当に無茶だと思えば止めました。それがしたちなら可能と思える作戦だったので、従っただけです」


 蛍はおだやかに言い返す。

 だけど、なぜだろう?


 ふたりの間に火花が散っているというか、見えない剣で斬り合ってるような空気になっているんだけど、俺の気のせいだろうか?


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遅くなってしまいましたが脇役錬金術師、1巻重版が決まりました。

御礼申し上げます。

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